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​【第二章】翼を持つ獣

~つがいの火竜~

古代樹の森装備完成_Fotor.png

#133

アッパーが突然、数日留守にすると言って出かけて行った

暇になった私はアステラの狩人から教わった"クラッチ"という技術を

練習してみる事にした

相手は.."アンジャナフ"と呼ばれる大型の獣だ

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#134

巨大な体格と二本足で歩くその立ち姿はあいつを思い起こさせる

...イビルジョー

依頼書の危険度ではそこまでの相手ではないはずだ

しかし奴の激しい咆哮を目の当たりにし

私は冷や汗が湧き出していた

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#135

戦いは激しく、奴の猛攻は樹々を薙ぎ倒す勢いだ

時折吐く炎はまるで飛竜のような激しさを見せる

しかしぶつかり合いを重ねるごとに

私の心の委縮は段々とほどけていき

闘志は奴の炎を飲み込むように強く、強く燃え盛る

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#136

隙を見て、奴の足にフックを飛ばす

架かった!!!

スリンガーの引き込み機構を起動させると

ロープが勢いよく巻き取られ、私の体は

まるで吸い込まれるように奴の体に飛びついた

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#137

足元への攻撃でバランスを失い転倒したアンジャナフに

すかさず追撃を入れる

クラッチでの超接近の一撃は奴の表皮をえぐり、皮膚を露出させていた

これがアステラの狩人の言っていた"削撃"の技法だ

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#138

――――夕陽がまぶしかった

あれからどれくらい戦っていただろう

服はまだブスブスと音を立てており、焦げた匂いが鼻に残る

は横たわり、沈みゆく夕陽のように静かにその命を終えていた

私の心にはもうひとかけらの恐怖も無く

ひとつの試練を乗り越えたことをみ染みと感じていた

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#139

夜になってもアッパーは帰ってこなかった

その日の夜、久々に寝付けなかった私は

故郷の凍て地の里に想いを馳せていた

みんな健在でいるだろうか

..やはり、独りは寂しいな

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#140

翌日私は工房に出向き、これまで収集した素材で装備を新調した

アッパーが戻って来た時、この姿を見たらきっと驚くだろう

アンジャナフの素材は火に強いそうだ

飛竜と戦う時にもきっと役に立つはず

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#141

新しい装備の具合を試しに森へと繰り出した

アンジャナフの装備は肌の露出が多いが

最初の頃気になっていた虫の多さや草の深さも

いつの間にか慣れて平気になっていた

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#142

しばらく探索していたところで緑の飛竜と遭遇した

前回から名前は調べてある

こいつは火竜リオレイア

赤の火竜リオレウスと対を為す、雌の個体だ

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#143

強敵なのは間違いない

以前アッパーから言われたことはもちろん覚えている

"単独で挑むな"

しかし今回は、回復の手立ても逃げる手立ても用意している

勝ち目がなければ深入りはしない

意を決し、火竜と相対する

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#144

こいつもリオレウス同様激しい火炎を吐き出してくる

しかしここは樹々も深い森の中

倒木や大茸を利用し、火球をかわすのは造作なかった

奴は時々飛ぼうともするが、樹々の密集するここでは

空中の動きも制限されるようだ

場所に恵まれた

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#145

しかし奴の攻撃はこれまでの獣よりいっそう力強く

戦っているうちにあたりの樹々は次々と薙ぎ倒されてゆく

尻尾の一撃は軽くかすっただけでも吹き飛ばされてしまう

奴の体は棘が多く、私もだんだんと出血を伴う傷が増えてきた

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#146

リオレウスと違っていたのが飛び上がっての尻尾攻撃だ

回転の勢いを載せたそれは私の体に激しく食い込み

直撃を受けた私は吹っ飛ばされて大樹の幹に叩きつけられた

気を失うほどの痛みに伴い、体を蝕むような鈍痛を感じた

これは..毒か?

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#147

とっさに物陰に潜み、奴の攻撃をやり過ごしながら

回復薬を一気に喉に流し込んだ

体は癒えたが迂闊なことに今回も解毒薬は持っていない

ふと、そばにある青い草に目が行く

何日も探索していてこれが何かはよく知っている

..解毒草だ!

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#148

少しずつ奴の動きにも慣れてきた

攻撃は大振りで、赤の個体と比べると動きは鈍い

戦っているうちにいつの間にか夜になっていたが

だんだんとこちらが優勢になっていた

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#149

よろめきながら奴は飛び去って行った

このまま一気に仕留めにかかる

何処に行ったのかは分かっているんだ

私は翼竜に摑まり、上層のキャンプへと向かった

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#150

思っていた通り、奴は上層の巣で眠りについていた

翼竜を使えばこんな長距離への追走も楽に行える

徒歩であればこんなところに来るまでに疲れ果ててしまい

そのうちに逃げられてしまうだろう

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#151

起こさないよう静かに呼吸を整え

鎚を構え、ゆっくりと力を溜める

叩 き 潰 す

一念振り絞って頭部にとどめの一撃を放った

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#152

奴が息絶えたのも束の間、大きな羽音が辺りにこだまする

何かが迫っている

いや..間違いない

ここまで上がってくる獣など、あいつ以外にいるはずがない!!

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#153

それは大空から勢いよく飛び込んでくると

つがいのなきがらを目にして地にも響くほどの怒号を放った

口からは灼熱が漏れ出し、憤怒のさまを物語っている

もはや命の取り合いのほか無い

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#154

鋭い爪で襲い掛かってくる奴の攻撃をかわし

足元にフックを飛ばす

うまく摑まることができた

空中に逃げられてもこれなら攻撃を加えられる

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#155

私の動きを牽制するように奴が火球を放つと

突然近くの壁から地響きと共に轟音が鳴り響いた

壁が..崩れようとしている!!

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#156

なにかとてつもないことが起きようとしている

危険を察知し、慌ててリオレウスの体にフックでしがみつく

近くの壁がけたたましい音と共に崩れ、大量の水が勢いよく流れだした

何が起きている!?

リオレウス自身も狼狽している様子だった

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#157

奴は流れる水に気を取られ、こちらに背を向けている

好機だ!!

これを逃す手はない

一気に畳みかけてやる

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#158

あまりの出来事に怒りも忘れていただろう奴の背に

渾身の連撃を叩き込んだ

さすがに堪えたのだろう、体勢を立て直した奴は

怒りの炎を辺りにまき散らす

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#159

奴は空中から強襲する時こちらに急接近する

その動きに合わせれば攻撃を叩き込む事ができる

フックで摑まる戦法も有効だが、打撃の重さはこちらの方が有効だ

しかし、捨て身の戦法で私の体も負傷は避けられない

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#160

奴の翼の羽ばたきは時折強風を放ち、身をあおられる

機を焦って近付き過ぎた私はもろに風圧を浴び、のけぞってしまった

奴がこちらに襲い掛かろうとしたその時

紫色の何かが私の脇を横切って行った気がした

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#161

突然飛び出してきたそれは私を突き飛ばし、奴に殴りかかった

 

アッパー!!!

 

駆けつけてくれたのか!!

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#162

今まで一体どこに..?

いや、それは後だ

向かっていくアッパーがこちらに合図をよこす

「その光虫のカゴを叩け!!」

いつの間にか私の傍らに輝く籠が設置されているのに気付いた

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#163

アッパーに促されるままに輝く籠を思い切り殴る

とたんに眩いばかりの閃光が辺りを激しく照らしだす

一瞬視界を奪われたかと思うと

次の瞬間、目の前を羽ばたいていたはずのリオレウスは

地面に叩きつけられていた

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#164

突然の光に目が眩んで落下したのだろう

体勢を整えようとしてよろめいている

今頭部を殴れば..!!

渾身の一撃が奴の頭に直撃する

脳を揺さぶる激しい一撃でリオレウスは昏倒し倒れ込んだ

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#165

もがき苦しんでいるところに更なる連撃を加える

奴の鱗は頑強で、生半可な打撃ではまるで歯が立たない

致命的な痛撃を与えるのならば、頭を打ち砕くことだ!!

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#166

奴は力を振り絞り、立ち上がった

しかし足取りに力は無く明らかに怯みの色が見て取れる

反撃に対し身構えていると、アッパーが奴の足元で何かを炸裂させた

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#167

死力を振り絞って最後の反撃に転じるつもりだったのだろう

体中が痙攣し、身動きが取れないでいる

必死に抗おうとするその憤怒の炎は眼光からも溢れ出し

必殺の狙いを定める私の眼差しと激しくぶつかり合う

 

――さらばだ火竜

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#168

互いに死力の限りを尽くした

空の王者と称されるお前の命

確かに、受け取った

最後の一撃と共に

ゆらめく炎を噛み締めながら

ゆっくりとリオレウスは崩れ落ちた

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#169

息絶えた火竜を見つめながら、思いにふける

連れ添いを失った悲しみと怒りは深かったろう

成り行きとはいえ、申し訳ない気持ちがわく

しかしこの大地において我々も獣もお互いに狩人

出会えば狩るか、狩られるか

相手の死はその結果に過ぎない

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#170

ここ数日、アッパーは森の虫かご族と交流していたそうだ

閃光の虫かごや痺れ罠の技術は彼らから習得したらしい

そろそろ帰ろうかという頃合いに濁流の轟音を聴きつけて

急いで駆けつけてくれたそうだ

アッパーの新たなる力は狩りの大きな一助となった

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#171

アッパーが話があるというので近くのキャンプへ場所を移した

森の虫かご族より聞いた話だが、彼らには一族の情報網があり

それによると凍て地の獣人族が強大な獣に襲われ、窮地にあるのだという

私たちがこちらに来ている間に、そのような事態になっていたとは..

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#172

ふと、アッパーの表情が曇った

一族を襲っている獣

それは白き鎧の獣だという

私は見たことのない獣だが

アッパーの両親はそいつに殺され

アッパー自身もその時に重傷を負ったという話を聞いたことがある

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#173

私たちは一刻も早く凍て地へ戻るべく、飛行船に乗せてもらう事にした

待ち時間中、世話になった狩人とばったり会ったので

クラッチの技術が役立ったことのお礼を告げた

よく見たら私たちは共に同じ装備を着ている

思わず二人して笑った

ありがとう、アステラの狩人

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#174

飛行船に乗り込むと、多くの物資やヒトが盛んに出入りしていた

そういえば、凍て地に設立すると言っていた拠点は

どれくらいできたのだろうか?

..アッパーの足取りは心なしか重いようだった

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#175

飛行船が飛び立ってしばらくして、外の様子を伺った

...寒い

どうしたことだろうか

私は寒さを感じないはずなのに

吹き付ける風が寒くて仕方がない

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#176

神官衣と共に、いつも身に付けていた首飾りを外している事を思い出した

あの宝珠には寒さを遮る力がある

あの衣は私が捨てられた時にその場に添えてあったものだが

元々の持ち主は私の母親...だったのだろうか

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#177

あまり考えないようにしていたが

ヒトの滅びた凍て地で母は何をしていたのだろうか

いや..滅びた人々の中に母もいたのだろうか?

だとしたら

私は凍て地の滅びたヒトの最後の生き残りだったのかもしれない

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#178

久しぶりに神官衣に袖を通し外に出てみた

やはり、寒さを感じなくなった

それどころか、これまでにない力の脈動を感じる

いつも身に付けていたから分からなかったが

この衣には何かとてつもない力が秘められている

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#179

凍て地で凍魚との戦いを凌げたのも

イビルジョーに襲われた折に助かったのも

この衣を身に付けていたおかげだったという事を悟った

幾度も大きな戦いをくぐり抜け

その大きな力に気付けるまでに成長できたのかもしれない

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