MONSTER HUNTER WORLD ICEBORNE
二次創作物語
【第三章】里の窮地
~白き鎧の獣~

#180
凍て地に到着すると
そこには新たな拠点が造り上げられていた
セリエナと名付けられたこの場所は
アステラほどの規模にはないにしろ、充分に立派な拠点だ
どこか落ち着いたたたずまいで穏やかな気持ちになる

#181
辺りを眺めていると、不意に後ろから声をかけられた
「エステリカ!!」
それは私の名前ではない..が、どうも私に言っているようだった
声をかけてきた老婆が私を見て驚いた様子でいる

#182
老婆に近付くと
「いや..人違いか。エステリカにしては若すぎる。
それにあやつの得物は双剣じゃった..」
「しかし、その衣は確かにエステリカのもの..おぬし、一体..」
詳しく話を聞きたかったが、もう里へと向かわなければ

#183
久方ぶりの凍て地
離れていたのはひと月ほどだったが、見慣れた景色に安心感を覚える
景観は何も変わっていない

#184
道中に部族の仲間がいた
彼らは私を見てひどく驚いた様子で
「よく帰ってきた..!サモ、アッパー!!里へ戻ってくれ!」
と涙ながらに駆け寄ってきた
急ごう

#185
里に帰ってくると、いつもより一族の数が少ないような気がした
話を聞くと、最近白い鎧の獣が縄張りを越えて我々の狩場に現れ
部族の狩人に襲い掛かったらしい
数人が犠牲になってしまったそうだ

#186
奴はそれから頻繁にこの付近に現れるようになったそうだ
我々一族には到底狩れるような獣ではなく
狩りに出るのが難しい状況らしい
なぜ、縄張りを越えてきたのだろう..?
普段ならまずありえないことだ

#187
里の守りとして奉納していた神鎚を手に取る
長い間、神への供物も捧げていなかった
神鎚が魔除けとならなかったのもそのせいだろう
里を脅威から守るため、供物は強者こそがふさわしい

#188
奴の縄張りである氷壁の断崖へ向かうと
部族の狩人たちが奴を撃退すべく戦っているのが見えた
白き鎧の巨躯の獣
散っていった同胞の無念、今こそ晴らす

#189
よく見ると奴は何かの攻撃に怯んでいる
狩人衆の指揮を執っているのは狩人頭のキーンだ
入念に準備を重ね、決死の覚悟で挑んだのだろう
あらゆる毒の仕込まれた武器を揃えている

#190
奴が狩人衆に飛び掛かろうとする刹那
アッパーと私が割って入り、連携して光虫カゴを炸裂させる
視界を奪われた奴は狼狽し、突進の軌道を逸した
狩人衆も何が起こったか分からずたじろいでいる

#191
ふつふつと沸き立つ闘志に体中が燃え滾る
「これは挨拶がわりだ」
怯んでいる奴の喉元をえぐるように神鎚の一撃を見舞った

#192
狩人衆は私とアッパーの出現に驚き、歓声を上げた
「神への祈りが通じた!神官が戻った!」
ここが一族の正念場だ
みなで力を合わせるぞ

#193
こいつとの戦いの記録など口伝でしか聞いたことがない
なんという..
なんという頑強さだ!!
そしてその猛撃の重さはまるで大木で薙ぎ払われているようだ!

#194
これだけの巨体にもかかわらず奴の動きは俊敏で
全身の重さをぶつけてくる突進はそれだけで大地をえぐる
その直撃を受けてなお、私の体は砕けずにいる
...この衣だ
やはり、これまでの装備と比べても圧倒的に鍛え上げられてある

#195
動きが早く俊敏なだけではない
奴は、恐ろしく判断が早い
私が隙を見て死角から攻撃しようとしても
咄嗟にそれを阻止するような動きを取ってくる
ここまで賢さを感じる獣は出会った事がない

#196
多対一であるにもかかわらず、私たちは奴に圧倒されていた
やはり、強い...
どうにかして奴の足を止めねば..
....アッパーはどこに行った?

#197
突然、奴の懐で爆発が起こった
アッパーがそれに巻き込まれるように飛び出してきた
「見たか!!森の部族直伝の地雷虫かごだ!!」
火に巻かれながらアッパーが雄たけびを上げる
奴の姿勢が大きくゆがんだ!!

#198
この機を逃してはならない
確実に動きを止める
大地を踏みしめ、思いの限りの力で顔面を殴り飛ばした

#199
攻撃の手は緩めないっ
更に、もう一撃っ!!
全身を捻り、体重を乗せた回転撃を側頭部に叩き込む
その瞬間、神鎚の微睡のヒダからまどろみの靄が一気に噴き出した

#200
まどろみの靄をまともに浴びて奴の巨体が倒れ込んだ
..眠っている
狩人頭のキーンは咄嗟に狩人衆の皆に伏せるよう号を発した
流石の判断だ
奴を刺激せぬよう、ゆっくりと周りを取り囲む

#201
キーンは私の動きを観て、合図を発する備えをしている
私とアッパーは静かに頷いた
共に得物を構え、力を溜める
アッパー
親しき友、相棒よ
私が一緒だ
やってやろう

#202
私とアッパーの同時攻撃が直撃するのと同時に
キーンが一斉攻撃の号令を発した
部族秘伝の毒をふんだんに含んだ長槍が雨あられと投擲される

#203
体勢を整える前に一気に攻め立てる
連撃に次ぐ連撃
ここでできるだけの体力を奪っておかなければ!!
しかし、気付けば隣にアッパーの姿はなかった

#204
攻撃から逃れるように飛び退いた奴の行先にはアッパーが待ち構えていた
奴の動きを先読みしたのだ!
私の傍らには既に光虫カゴが備え付けられている
アッパーは私に目で合図を送った

#205
あいつは..
本当に...
何というやつだ!!
私たちは皆好機に我を失っていた
感情に身を任せ、攻めることに一心となる中
あいつは先の展開を見越して冷静に動いていたんだ!!

#206
そして今、奴の注意を単身引き付けている
挑む前、お前が恐怖で震えていたのを知っている
奴に挑むための心の準備はきっと充分にはできていなかったはずだ
だがあいつはきちんと覚悟を決めていた
お前の覚悟を無駄にはしないっ

#207
視界を奪われ奴はたじろいでいる
すぐさま追撃を入れようと駆け寄ると
危険を察知したのか、奴はやみくもに暴れ出した

#208
攻撃を避けるためか、奴は激しく動き回る
そのうちに奴は近くの横穴に入っていった
追い詰めようと詰め寄る私たちを奴は咆哮で威嚇する

#209
「お前たちはそこに居ろ!ここは俺達で後を追う!」
「しかし頭、ここは一気に..」
「狭い場所に集まっても一網打尽にされるだけだ!
奴が穴から飛び出てきたら足止めを頼む」
キーンが狩人衆に指示を飛ばす
彼には高い統率力と判断力がある
共に奴を叩こう

#210
やがて視力が戻った奴は狭い空間を利用して
かわしにくい大振りの攻撃を仕掛けてくる
力で迎え撃とうとするが攻撃の重さでは奴に分がある
私の鎚はことごとく弾かれ、苦戦を強いられていた

#211
攻撃を弾かれよろめいたところに頭突きをくらい、尻もちをついてしまった 奴の眼光が鋭くなる
仕留めにかかる気だ

#212
咄嗟にアッパーが私を突き飛ばし
すんでのところで奴の咬撃を逃れた
すまんっ、助かった!

#213
このままでは埒があかない..
閃光で視界を奪おうと試みるアッパーのカゴ設置に合わせて
カゴをたたき割ろうと鎚を振り上げる
しかし、奴もそれが何なのかを学習している
即座に後方に身をかわし、飛びのきざまに氷雪の息吹を吐き出し
閃光を阻止しようとする

#214
息吹は私の真横で炸裂し、激しい突風が吹き荒れる
その勢いに押され、たじろぐしかなかった
しかしその勢いでカゴは崩れ、閃光を発した

#215
閃光の光をまともに浴びたはずだが、さほど怯んでいない
もう目が慣れてしまっているのだ
しかし、この一瞬
ようやく出来た隙を逃すまいと私たちは一気に襲撃する

#216
奴はすぐに飛びのいて私たちと距離を取った
憎らしいほどに頭がいい
視界がなくとも接近攻撃しかできない私たちとの戦い方を心得ている

#217
大振りの攻撃をかわされてしまい姿勢を崩した私は
奴を追撃すべく、すぐさま体勢を立て直し鎚を構えた
奴の姿が...!
消えた....?

#218
突然、頭上から巨大なものがのしかかってきた
とてつもなく重い衝撃を受け、私は吹っ飛ばされた
死角から何の身構えもしていなかった所に激突をくらい
全身の骨が砕け散るような激痛と共に、意識が飛びそうになる

#219
明らかに致命打だったが、かろうじて立ち上がれる
これは、あの時と同じだ...
イビルジョーからの攻撃を浴びた際も
薄皮一枚で命が持ちこたえる感覚があった
アッパーが奴を引き付けてくれている間に
ここにくる前に調合しておいた秘薬を飲み込んだ

#220
たちまちウソのように痛みが消えた
体も平常通りに動く!
アッパーとキーンが何とか持ちこたえてくれている
注意が向こうに逸れている間に死角から攻める

#221
近付こうとしたところで再び奴が飛び上がる
一度目にしたので動きは捉えた..が
このように跳び続けられては手が付けられない
ふと、奴が飛び上がった場所の壁際に何か光るものが見えた

#222
これは..ヒカリゴケだ
咄嗟にアステラの狩人の言葉を思い出し
壁に生えたヒカリゴケをむしり取った

#223
アステラの狩人から教授を受けたクラッチの技には続きがある
それは奥義ともいえる技で、高度な技術を要する
スリンガーの弾を装填した状態で頭部に張り付く

#224
クローを顎骨の根元に引っかけるように強烈に殴りぬける
首の関節が強引に引っ張られるのに合わせて
奴の体はたまらず壁の方を向いた
ここだっ!!

#225
ヒカリゴケを装填しておいたスリンガーの引き金を思い切り絞り
更に数弾のヒカリゴケを強引に押し込め、解放する
過剰な負荷がかかったスリンガーは
ヒカリゴケの弾丸を激しく散射させた

#226
スリンガーの爆発的な散射を首元に浴び
奴は壁の方に弾き飛ばされていく
顔面から壁に激突し、奴は大きく転倒した
すかさずアッパーとキーンが追撃に向かう

#227
私たちは死にものぐるいで烈火のように猛撃を重ねた
三人共、限界が近い
瀬戸際だ
我々が敗れるか、奴が力尽きるか

#228
奴はどうにか立ち上がったが、その顔にはもはや気力は残っていない
間合いを詰め、三人で息を合わせる

#229
三位一体の同時攻撃
全ての闘志を込めた入魂の一撃
鈍い音が辺り一面に響き渡る
奴は全ての動きを止め、眼の色を失った

#230
崩れ落ち、息絶えた奴を見て
私たちは自然と涙を流していた
勝利したことだけではない
死んでいった同胞のこと
そして、これまで我々部族では
到底抗うことができないと諦めていた脅威を
ついに乗り越えることができたのだ

#231
「どぉぢゃん..があちゃん....」
アッパーは両親の犠牲をもって今を生き延びている
仇など討てるはずがなかった
彼が荒んでしまったのはそうした背景も大きかったと思う
やりきれない気持ちとずっと戦ってきていたんだ
彼の心は今、一つの救いを得た

#232
狩人衆の皆に勝利を伝えると歓声が上がった
「神官があいつを倒した!!サモ万歳!!
アッパー、キーン万歳!!」
「大神官サモ!!万歳!!万歳!!」
「大神官!!大神官!!」
みなが沸き立つ
一族全員の勝利だ
