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​【プロローグ】

​~獣人族の娘~

凍て地のサモ完成_Fotor.png

#1

私はサモ

凍て地と呼ばれる場所の秘所にある、獣人族の里で育った

捨て子だった私は彼らとは異なるヒトという種族らしい

​彼らはそんな私を分け隔てなく育ててくれた

#2

幼い頃は里での武具の手入れや食事の支度くらいしかできなかった私も

13歳を迎える頃には小さな獣の狩りに同行し、

体が成熟するにつれて私は単独の狩りを任されるまでになっていった

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#3

ヒトとしての"成人"の年齢になった私は竜人族の長と会い

神官として獣人族の神事に携わるための認めを受けた

神具として授かった微睡の鎚を手に、神に供物を捧げる者として

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#4

いつものように獣を狩っていると、大型の獣の痕跡を見つけた

最近よく姿を見せるという凍魚のものだろうか

まだ相対したことのない獣だが、今度の祭事には立派な供物が必要だ

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#5

獣の身を剥ごうとしていると突然木陰から轟音と共に雪しぶきが舞う

雪の中を泳ぐ異様、凍魚がその姿をあらわにした

これほどの大物を相手にしたことはない..が

その時が来たのだろうと私は覚悟を決めた

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#6

見上げるほどの巨躯..

こいつに挑んで命を落とした仲間もいると聞いたことがある

しかしこいつはまだこちらに気付かずにいる

私は息を殺しつつ静かにゆっくりと、しかし渾身の力を込めつつ

微睡の槌を構えた

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#7

意を決し、奴がこちらを向くのに合わせ思い切り顔面に槌を振り下ろす

頭を狙うのは狩りにおける必殺の心得だ

かつて経験したことのないとてつもなく重い手応えに気を取られていると、 目の前で凍魚の鋭い眼光が私をつけていた

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#8

背筋が凍るのを感じ、すかさず二撃目を入れようとすると

凍魚はすさまじい速さで眼前から外れた

 

雪上とは思えない、まるで水の中を泳ぐような動きだ

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#9

落ち着け、狩りの基礎は同じだ

動きを観て、かわして、隙を突く

奴の動きは速いが攻撃は大振りだ

呼吸を整えつつ、こいつの動きに合わせるんだ

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#10

雪の中で潜行する軌跡を見据えつつ、

飛び出してきた所に呼吸を合わせて一撃を叩き込んだ

私を串刺しにしたつもりだったのだろう、凍魚の視線が強烈な衝撃を受けて宙を泳ぐ

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#11

意識を奪われる程の一撃で狼狽したのか、奴は私と距離を置き

警戒の構えを取った

 

侮ることをやめた目でこちらの動きを見計らっている

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#12

明らかに奴が本気になったのを見て取れたが、不思議と負ける気がしない

動きについていける

一瞬の気の緩みが死に直結するであろう凶悪な牙を前にしてなお、

闘志の高揚は増す一方だった

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#13

しばらくの戦いののち、奴は泳ぎ去っていった

緊張の糸が緩み深いため息が出た私は、

ふと自分の体のあちこちから出血している事に気付いた

奴の逃げた方に向かうと、谷間の開けた場所に奴はいた

向こうもあちこちに傷を負っている

このまま逃がすつもりはない

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#14

背後からゆっくりと駆け寄り死角から一撃を入れると、

凍魚は昏睡し倒れ込んだ

竜人族の長より賜ったこの神器の力だ

神器に纏われた微睡のヒダが打撃とともに徐々にまどろみに誘う

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#15

眠りについた凍魚を前に、静かに呼吸を整え鎚を構える

 

哀れな凍魚、深く、深く眠れ

これがお前の最後の夢になるのだ

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#16

身をひるがえし、全身の力を鎚に乗せる

とどめの一撃を受け、凍魚は息絶えた

小型の獣を狩っている時には感じなかった命のせめぎ合い

それを肌で感じた瞬間だった

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#17

里の皆で力を合わせ、持ち帰った獲物を神に捧げる

儀式を行うのも私の役割

この凍て地で得られるあらゆる恵みに感謝し

時に脅威をもたらす神を畏れ、敬うのだ

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#18

宴席のさなか、同胞二人の話し声が聞こえた

なんでもこの凍て地でヒトを見たという話だ

私がこの地で拾われてすぐ、この地に住んでいたヒトは

神によって全て滅ぼされたと聞いていた

生き残りがいたのだろうか..

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#19

同胞が見た"ヒト"とはすぐ会うことができた

私の話し方はたどたどしいそうだったが、不思議と言葉は理解できた

彼は他の大陸から調査のために来たそうだが

彼の話によると、最近この地で大いなる存在の目覚めの兆しがあるという

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#20

古のものであり、偉大なるもの

ここにあるのはかつてこの地で力を振るった神の鎧

その力は獣やヒトとは一線を画し、災害を引き起こし

何もかもを薙ぎ倒していく

今は眠りについておいでだと思っていた

あのヒトの話は本当であろうか

私に何ができる?

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#21

鎮めねばならない

私には力が足りない

この地に生きる大型の獣のほとんどに、私はまだ歯が立たない

供物を捧げるだけの力をつけるために

大陸へ渡りヒトの地へ行くことを私は決意した

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#22

先日会ったヒトからの紹介で

調査団と名乗る連中の乗り物に乗せてもらえる事になった

''そんな恰好で寒くないんですか?''と言われたが、

私は生来寒さを感じた事がない

拾われた時に添えられていた宝珠に、寒さを遮る不思議な力があるのだ

それがなかったら赤子の私は吹雪の中で死んでいただろう

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#23

里を離れるという事で、心配する者、憤慨する者、差し入れをくれる者、と

反応は三者三様だったが

それだけ私がこの里にとって大きな存在になっていたことがただ嬉しかった

 

必ず戻ってくるから、みんな健在でいてくれ

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#24

荒くれ者のアッパーとは言葉を交わさなかった

彼は武器を構えていて、それが何のつもりなのか私には分かっていた

幼い頃から何度も喧嘩をしてきた

口の悪さと腕っぷしでは並ぶ者がない

親友よ、命の保証はないが

ついてきてくれるか

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#25

初めてのヒトの乗り物は驚くほど巨大で、

信じられない事だが空を飛ぶという

そこには滅びたはずのヒトが大勢いた

これから凍て地に大きな拠点を造るのだと言っていた

大陸の方にはまだまだ沢山のヒトがいるのだろうか

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#26

いつも見上げている雲を下に見ながら、

だんだんと遠ざかる凍て地に思いを馳せる

ここに乗っているヒトの中には狩人も多くいるという

獣人族の神官である私も、旅先では狩人という扱いになるのだろう

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#27

凍て地を旅立つ時、私は里に神鎚を置いてきた

神性を秘めたあれを里の守りとして奉じてきたのだ

狩人としての新たな武具をこれから手に入れなければ

幸い、いくつか狩りの補助具を分けてもらう事ができた

スリンガーという物だが、使い方が分からない

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#28

大陸に到着した私たちはヒトの里でただただ呆然としていた

なんだこれは...

なんだこれは!!

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#29

ここはアステラと呼ばれる拠点だそうだ

もともとは違う場所からヒトが移ってきて造り上げたものらしい

凍て地もいずれはこのようになるのか?

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#30

ヒトの拠点の壮大さもそれは見事なものだったが

凍て地とはまるで異なる大自然の美しさには目を奪われるばかりだった

行ってみたい

ヒトの技術者に融通してもらった新しい鎚を背に、

私の心は童心に返ったように高鳴っていた

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