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​【第一章】供物を捧げるために

​~見知らぬ大地にて~

#31

アッパーが食事処で食事をしている間、

私は拠点の門を抜け、森へと続く道へと出てきた

ちょとした散策なのでアッパーには 一緒に来なくても大丈夫だと伝えた

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#32

こちらの植物はやはり凍て地のものとは植生が全く違う

土壌も豊かに養分を含んでいるように思える

住んでいる生き物もやはり異なるのだろう

目にするあらゆる景観が力強く美しい

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#33

少し進むと道沿いに海岸が見えてきた

遠くに何か獣がいるのが見える

新しい鎚の使い勝手を試すのにちょうどよさそうだ

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#34

凍て地では見たことのない獣がいる

群れを相手にするのは久しぶりだ

相手の事はまるで分らないが、小型なら何とかなるだろう

気配を殺し、奇襲をかける

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#35

一気に間合いを詰め、群れの中でも大きい奴に一撃を入れる

突然叩き上げをアゴに喰らい仰天した様子の獣は

すぐさま後ろに飛びのき、集団で私を取り囲んだ

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#36

凍て地の凍魚と比べると個体の動きはどいつも鈍く

集団が相手でも問題はなかった

新しい鎚は神鎚と比べると威力に劣るものの

形状が似ていることもあり取り回しはしやすかった

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#37

頭が固く、突進を得意とする獣のようだったが

脳天に渾身の一撃を入れると最後の一匹も絶命した

不安はあったがどうやらこの鎚でも十分戦っていけるようだ

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#38

ふと海辺に目をやると、沢山の魚が集まっているのが見えた

そういえばヒトの乗り物の中で受け取った狩りの補助具の中に

釣り竿があった

釣りは初めてだが、試しにやってみようか

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#39

釣り糸を垂らすとすぐに魚が食いついた

大きな魚影がたくさん見える中で、 釣れた魚はとても小さいものだった

初めてだからこんなものだろう

次は向こうの大きな奴を狙ってみようか

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#40

続いてかかった手ごたえは先ほど比べ物にならない程重く

竿ごと持っていかれそうなくらい激しい!!

魚の動きに合わせて懸命に力を込めて引き寄せる

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#41

お前のようなもの、神鎚に比べればっ

振り上げの要領で思い切り引き上げる

釣れたっ!!大きい!!

鋭い角がある凍魚のような魚だ!

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#42

魚は釣られてなお私の腕の中で激しく暴れまわった

獣の狩りとは違った面白さを感じる

嬉しくなって思わずはしゃいでいた私は、

突然背後にとてつもなく強大な存在の息吹を感じた

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#43

突如、巨大な何かが背後から飛び掛かってきた

咄嗟に身をかがめてかわすことができたが

釣ったばかりの魚は放り出すしかなかった

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#44

こいつが何なのか見当もつかないが、これまで私が

見たことのある獣の中でも圧倒的に危険なのは一目瞭然だった

奴は私が放り出した魚を一口で頬張ると、次はこちらに狙いを定めた

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#45

震える腕に力を込め、雄叫びを上げた私は思い切って踏み込み

奴の巨体に渾身の一撃を入れた

あまりの肉体の頑強さ

打撃が全く通っていない感覚

奴は全く動じた様子もなくこちらに顔を向けた

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#46

奴は不気味に輝く赤黒い煙を吐きながら

全身をひるがえし、薙ぎ払ってきた

 

その猛撃をまともに受け、

体がちぎれ飛びそうなほどの衝撃で吹っ飛ばされる

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#47

たったの一撃で、私は息絶える寸前の損傷を受けていた

どうにか立ち上がることができたが、とても戦い続けることはできない

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#48

逃げなければ

とても勝ち目はない

奴の攻撃が大振りなのが幸いだった

どうにか一撃を避け、全力で走り出した

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#49

後ろから奴が追ってきているのを感じる

歩調はゆっくりなはずなのに、すごい速さで迫ってくる

かつてない最大級の命の危険に全身が粟立つ

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#50

拠点近くまで来ると、奴は追ってくるのをやめた

安堵のため息をついていると

奴の巨大な咆哮があたりに轟いた

まだ助かっていない

私は再び全力で拠点の門を目指し逃走した

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#51

這う這うの体でどうにかアステラへと逃げ延びた

助かったのは運が良かったという他ない

あの森はあんな強力な獣が溢れているのだろうか..

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#52

アステラの総司令と名乗るヒトから例の獣の話を聞いた

あの獣は頻繁に現れるものではないが、圧倒的な力で

生態系を喰らい尽くす大変に危険な獣らしい

彼は奴の名をイビルジョーと呼んだ

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#53

私は合流したアッパーから厳しく叱責を受けた

自分が傍にいないまま強敵に立ち向かった事に

油断や思い上がりがあっただろう、と

悔しさもあったが、彼の顔を見て生き延びたことを

改めて身に染みて感じ、自然と涙がこぼれた

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#54

拠点の中で、今はだれも使っていない一室を

使わせてもらえることになった

寝台の上で.. 激しく残る鈍痛を感じながら私は思った

あれほどの獣を神に捧げれば、凍て地の神を鎮められるかもしれない

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