MONSTER HUNTER WORLD ICEBORNE
二次創作物語
【最終章】冰龍との死闘
~神との対峙~

#781
私は禁じられた神域に向かって歩き出した
アッパーとキーンも黙って後に続いた
あそこに神がいる

#782
通路を中ほどまで進んだところで私は立ち止る
「...ここで待っていてくれ」
二人にそう告げ、単身奥へと向かった

#783
神域の通路は私を誘うように妖しく輝く
まるで生贄を迎えるかのように
美しくも禍々しく
神の殺意を表すように

#784
ベルモートは素晴らしい狩人だった
その力強さ、逞しさだけでなく
不屈の闘志と鋼のような精神力を持っていた
最後まで、狩人として己を通したのだ

#785
彼が死んでしまったのは私のせいだ
神官の身でありながら
彼が神を倒してくれれば、なんて...
そんな甘ったれた考えがこの結果を招いた
彼が逝ってしまった今、神に立ち向かえるのは私しかいない

#786
神域の奥に神は座していた
全身に纏った氷は神の怒りの様を呈しており
神は私を見定めるように
静かに殺意の眼差しを向けた

#787
凍て地の神イヴェルカーナよ
あなたが神として我々を滅ぼさんというのなら
私は神官として、あなたを鎮めよう

#788
そして私は人間の狩人として.....
冰龍イヴェルカーナ
おまえを、狩る

#789
奴は私をめがけ、凍てつく吐息を吐きつける
私はそれをかわしつつ、冷静に考えを巡らせていた
このまま感情に任せてぶつかるのではなく
こちらの有利な場所におびき出すべきだ

#790
高低差もなく遮蔽物も少ない
それでいて壁際は障害物が多く
追い詰められれば攻撃をかわすのが困難になる
ここで戦うべきではない
私は奴の動きを読みつつ、隙を見て神域を離れた
追ってくるがいい

#791
背後から奴が猛烈な勢いで追走してくるのを感じる
その勢いは後ろを振り返らずとも
これまでのどの獣にも勝るほどの速度だと分かる

#792
奴は追走しながらも私の足を止めようと、氷の息吹を吹き付けてくる
背後で激しい音を立てながら通路に氷壁が連なり立った
私を凍らせるつもりだったのだろうが
氷の壁が自分自身の足枷になってしまったな

#793
そんな思いをよそに
奴は氷の障壁を意にも介さないように打ち砕き
更なる速度で迫ってくる
何という突破力だ!!
さすがに古龍、一分の油断もならない

#794
突撃の勢いそのままに、奴は私に体当たりする
跳ね飛ばされた私はそのまま雪原の方まで吹っ飛ばされてしまった
待ち構えていたアッパーとキーンが転がる私の体を受け止め
あらかじめ用意していたのであろう回復薬を振り掛ける

#795
「交渉はどうなったんだ!?」
「そんなものはない!!あの古龍を狩るだけだ!!」
「よく言った!!キーン、腹をくくれよ!!」
「分かってる!!ここまで来たらやるしかない!!」

#796
踏み込もうとしたその時
奴の口から白い靄のようなものが発せられた
これまでの激しさを伴った息吹とは違う..?
足元がチリチリと、まるで生きているように音を立てて輝く
背筋に悪寒が走った
これは...まずい!!

#797
爆 撃
そう感じるほどに激しい衝撃が雪面を吹き飛ばした
咄嗟に飛び退いて身をかわしていたが
完全には避けきれず、激しい痛みが体を襲う

#798
倒れ込んだ私を、イヴェルカーナは更に尾撃で追撃する
辛うじて串刺しをかわしたが、私は動揺を隠せなかった
バカなっ!!
尾はベルモートが命を賭して斬り落としたハズだ!!

#799
いや..やはり尾は切れている
攻撃の瞬間だけ氷を纏わせてトゲとしているのだ
ではやはり、尾には注意を払わねばならない
ベルモートの無念を思い、怒りが沸き起こってくる

#800
奴が着地する瞬間に合わせ、顔面に横薙ぎの一撃を叩き込む
静けさの中にあった私の心は怒りと共に燃え滾り
神へ対する恐れや迷い、その全てを吹き飛ばし
イヴェルカーナの氷の角を粉々に砕き割った

#801
角が折れるのと共にイヴェルカーナは倒れ込んだ
アッパーは爆薬を、キーンは投槍を
私は神鎚を以て
臥したる龍を激流の如く打ちのめした

#802
追撃も程なく奴は起き上がり嘶き声を上げた
私達の猛烈な追撃を受けてもまるで堪えた様子はなく
その立ち姿には微塵の揺るぎもない

#803
奴はまるで跳ね上げられたように飛翔し
地面に向かって息吹を吹き放った
みるみる辺りは凍り付き....
いや.....ひ、広いっ!!!
考えるより先に私は走り出した

#804
途端に、奴を中心に取り囲むような氷の爆発が起きた
それは連続的に外に広がっていき
辺り一面を雪面もろとも吹き飛ばしてしまった
爆氷を操るその絶大なる力は
これまで神として語り継がれてきたのに相応しい
凄まじさを秘めている

#805
奴は次々と氷の息吹を繰り出し
かわすのが困難なほどの氷撃が飛散した
それと共に辺り一面、あちこちに氷の壁が形成されていく
私達は分断され、立ち回りもままならないまま
次第に追い詰められていった

#806
かろうじて奴の動きを捉え
反撃に移るべく氷壁から身を乗り出そうとしたその時
足元からいくつもの氷柱が生えでてきているのに気付いた
こ...この密集具合では....
かわせない...

#807
地面を埋め尽くす氷の壁、その全てが爆散する
あ....圧倒的だ......
まるで掌の上で弄ばれるように
私達は砕かれた氷に全身を打ち付けられ
乱暴に振り回された人形のごとく跳ね飛んだ

#808
「サモ!!大丈夫か!!」
キーンが私に呼びかける
わずかに意識がある....
彼らは攻撃を逃れられたのか...
私は....あれだけの猛撃を浴びて、なぜまだ命があるんだ..?

#809
やはり..この神衣だ
消し飛びそうな命をギリギリで繋ぎ止めている
野性的な根性の息吹を、確かにこの衣から感じる
私は秘薬を飲み込み
アッパーとキーンに襲い掛かる奴を止めるべく走り出した

#810
キーンに襲い掛かろうとしていた奴の動きが急に鈍った
口元から毒液がしたたり落ちている
あれは部族秘伝の毒..
仕込んだのは..キーンだ!!
致死性ではない..が
体感したことのない苦しみに戸惑っているような様子だ

#811
怯んだところに一撃を入れると
イヴェルカーナは意識の糸が切れたように倒れ込んだ
睡撃の力が..入った!!
神であっても眠るのか..いや
こいつは神ではない
目にものを見せてやる

#812
「まさかこいつに睡撃が効くとは..」
「サモ、どうするんだ?」
「こうするのさ」
奴の懐にありったけの爆薬を仕掛けた

#813
「アッパー、キーン、奴が転倒したら追撃してくれ」
「爆破するだけで倒せるのか?」
私はつぶてを放ち爆薬を起爆した
たちまち爆炎が巻き起こり、イヴェルカーナは飛び起きる
私は数歩後ろから、ただ一点をずっと狙っていた
この瞬間を逃しはしない

#814
爆炎も収まりきる前に私は奴の頭部に摑まっていた
(サモ、よく見ていろ!!
古龍が相手でも動きを封じるすべはある!!)
脳裏にベルモートの言葉がよみがえる
何度も、何度も練習を重ねた鉤爪の一撃
イヴェルカーナも例外なく、跳ねるようにその身を翻した

#815
つぶての残るスリンガーに全ての弾を押し込み
奴の後頭部を押し出すように斉射する
弾かれた奴の体は壁に向かって一直線に突撃し
思い切り壁に激突した奴は、昏倒するように再び倒れ込んだ

#816
転倒したイヴェルカーナをすかさず追撃する
奴の頭を必死で殴りつける私の真横で爆発が起きた
イビルジョーとの戦いの時にも見たアッパーのスリンガー戦車だ
ようやく作り出した好機に、私達は持てる火力の全てを注いだ

#817
すぐさま体勢を立て直した奴はその場で飛び上がった
この機に出来るだけ攻撃を浴びせようと急いていた私達は
大振りの攻撃に姿勢が乱れ、次の動きに対応できていなかった

#818
空中で素早く身を翻した奴は私に向かって尾を突き出した
私の顔のほんのすぐ真横を鋭い氷の槍が掠める
頬の肉を裂かれ、真っ白な雪の上に鮮血が舞った

#819
「サモ!大丈夫か!!」
あ..あと一歩ずれていたら頭を貫かれていた..
尾撃の鋭さに思わず怯み、身構えていると
目の前で、刺すような鋭い眼光が私を静かに捉えていた

#820
体が反応するより早く、奴は氷の息吹を繰り出した
完全に見定められて放たれた一撃だ
直撃は免れない
せめて少しでも...
私は後ろに飛び退いて、足元の傾斜を盾に身をのけぞらせた

#821
息吹の勢いを僅かに殺せたが、
風圧と冷気を浴びて私は吹き飛ばされた
凍り付くような強烈な冷気が全身を覆う
灼けるような痛みが走る..が、まだ体は動くようだ
私を仕留めたと思ったのだろう
奴は即座に身を転じ、アッパーとキーンに狙いを切り替えている

#822
私は身を屈め、息を潜めつつ回復薬を飲んだ
意識が向こうに移っている今なら、奇襲が狙えそうだ
私は奴に気取られないよう注意を払いつつ奴の死角へと移動した

#823
奴の動きは速く、私はなかなか奇襲の機を掴めずにいた
無理に飛び出せば攻撃の前に気付かれてしまう
ふと目が合ったアッパーに合図を送る
(アッパー!!奴をこっちに誘導してくれ!!)
こちらへ駆け寄るアッパーを追って駆け上がってきた奴の顔面を
突撃の勢いをそのまま受け止めるように思い切り殴りつけた

#824
意表を突かれた上に突撃を殴打で無理に静止され
イヴェルカーナの表情が苦痛に歪む
(この勢いを殺してはいけない)
私は殴打の勢いをそのままに体を回転させつつ
痛みで緩んでいる奴の顔面を殴り飛ばした

#825
まるで骨が砕けるような感触があった
奴は向こうで流延を垂らしつつ身動きが取れずにいる
骨が折れたのならば悶えるほどの痛みだろう
しかし、これで終わりだと思うな

#826
当たり所を考えると、折れているのは顎の骨だろう
狙うべきは負傷した部位
身動きがままならない隙を突いて
打ち上げるように下顎に更なる一撃を加えた

#827
このまま一気に..と身構えると
痛みを押したように強引に奴は飛び立ち
谷の合間をぬって飛び去って行った
しかしあの痛手ではそう遠くへは行けないだろう
すぐに追撃するべきだ

#828
向かいの開けた場所に奴の姿が見える
「待て、せめて回復だけでもしっかりしておこう」
キーンの申し出に各々頷き、体勢を整える
あそこは..湯が湧き出る場所だったはずだ
奴の氷の力を弱められるかもしれない

#829
奴はこちらに気付くなり向かってきた
全身に纏っていた氷が剝がれている
やはり熱気が立ち込めるこの場所では
氷の維持が難しいのかもしれない

#830
イヴェルカーナの動きには先ほどのような緩慢さはなく
機敏に動き、こちらの動きを牽制してくる
熱気で痛みが和らいだのか
氷を纏わない方が動きやすいのか..
ともかく、下顎に与えた痛みの影響は無くなっているようだ

#831
時折吹き付けてくる息吹には先ほどのような強烈さは薄らいでいる
こんな場所であっても大地を凍てつかせる冷気の力は流石だが...
この場所であれば..冷気の力を抑えつつ戦える

#832
しかし、ここには先の場所のような傾斜がなく
飛ばれたままではなかなか攻撃を当てることが難しい..
そう思っている所に、突然爆風が起こった
アッパーが爆弾を投げている
「空中への攻撃はオレに任せろ!お前は奴の隙を伺え!」

#833
爆撃で乱れた所に追撃を入れようとすると
奴は地上に降り立ち、素早く身をかわした
向こうも注意深くこちらの動きを観察し
一撃をもらわないように立ち回っている

#834
奴の動きは非常に機敏だが
氷の威力が弱まった分、致死的な一撃はない
集中を途切れさせなければ...
ふと、奴の動きが止まった
なにかを..溜めているような....
嫌な予感がよぎり、それを阻止すべく殴り掛かった

#835
強烈な冷気がイヴェルカーナの体から発せられる
古龍は再び氷を纏い、あたりに立ち込める熱気が
バキバキと音を立てて反転した
熱で弱められていたのではなく
一次的に冷気の力を休めていただけだったのか..?

#836
熱気に包まれていたはずの湯がみるみるうちに凍り付いていく
それと共に動きが取り辛くなっていくのを感じる
このまま湯面に浸かっているのはマズい

#837
アッパーが爆薬で奴の動きを牽制しようとするが
凍り付いた湯面で動きが鈍った私を奴は見逃さない
尾撃が繰り出される寸前、キーンが私を突き飛ばした
どうにか尾棘の一撃を免れたが
背後でキーンのうめき声が聞こえた気がした

#838
「キーン!!」
「大丈夫だ!問題ない!!」
キーンは私の心配をはねのけるように
イヴェルカーナの体に力強く槍を突き立てた

#839
氷を纏ってからイヴェルカーナの猛攻はますます激しくなった
温泉の熱気などものともせず、辺りを次々と氷漬けにしていく
息吹をやり過ごせるような斜面もなく
私達は体力を奪われる一方だった

#840
奴の突進をかわした際、不意に奴の顔が湯面に浸かった
一瞬イヴェルカーナの表情が曇る
角から水滴がしたたり落ちる
僅かながらにも強度を揺るがされた角
私は一点を見据え、その身を乗り出した

#841
湯面の中で熱せられた神鎚を
その熱湯ごと巻き上げるように奴の顔面に叩きつける
氷の角は根元からへし折れて砕け散った
イヴェルカーナは苦痛を露わにし
のけぞるようにして湯面に倒れ込んだ

#842
湯面から起き上がったイヴェルカーナは
力の象徴たる氷の角を二度までも折られ
傷付いた誇りにほとばしる怒りを静かに抑え込みつつ
その眼光からは、凍り付くような殺意が漏れ出していた

#843
飛び上がったイヴェルカーナは温泉地を離れ、
開けた雪原へと移動した
まるでこちらを誘うように、挑発的な眼差しでこちらを見ている
「こっちへ来い。ここで殺してやろう」
言葉はなくとも、そう語っているのが分かる
