MONSTER HUNTER WORLD ICEBORNE
二次創作物語
【最終章】冰龍との死闘
~悲しみを越えて~

#844
私達は雪原へと繰り出す
奴にどのような思惑があろうとも
真っ向から打ち砕く覚悟はできている
たとえここで命尽きようとも

#845
向かってくる私達に対し、奴は飛ぶように疾走し
鎚を振りかぶった私をかわすように瞬時に視界から消えた
背後を取られた..!?
いや、動きが違う..

#846
背後で雪を裂くような音がした
キーンとアッパーが狙われている
攻撃の重い私を避けつつ、一人ずつ始末するつもりか..?

#847
そうはさせない
奴が向こうに集中するというのなら
私は奴の意識の外から奇襲をかける
アッパーが火薬でかく乱した隙を突いて死角から攻め入った

#848
突如、足元から広範囲に氷の柱が連なり立った
私が奇襲してくるのを読んでいたのだろう
いや、それを誘ってすらいたのかもしれない
直撃は免れたものの、私は氷陣の外まで弾き飛ばされてしまった

#849
これまで戦ったあらゆる敵とまるで違う
賢さ、技の巧みさ、観察力、状況の読み、戦いの駆け引き
そのすべてが隙が無く鋭い
「アッパー、キーン!!すまん、少しだけ耐えてくれ!!」
狩人として奴を上回れるとしたら
奴が知らない方法を用いて隙を突くしかない

#850
古龍に罠は効かない
が、クシャルダオラと同様に閃光弾が効くはずだ
奴は私が大きく距離を取ったことで
何かを画策しているのに気付いた様子で
こちらを向き飛び掛かろうと身構える
その瞬間に、奴の眼前で閃光が発せられた

#851
視界を奪われ闇雲にあたりを攻撃している奴を強襲する
「アッパー、キーン!!お前たちは距離を取ってくれ!」
こちらの姿を捉えていないのなら無理に近づく必要はない
そう、私以外は

#852
激しい氷の列柱を発する攻撃も
距離を取っていれば難なくかわせる
しかし、キーンの動きが鈍い...
今の攻撃ももう少しで当たるところだ
負傷しているのか..?

#853
しかし今は攻撃が先決だ
隙が生まれている間に打撃を与えねば
私は単身突撃し、奴の頭部を狙って飛び掛かった

#854
突然の強襲に備えていなかったイヴェルカーナは
体ごと突っ込んできた私の一撃で姿勢を崩され
そのまま雪面に突き倒された
まだ視界も回復しきっておらず、もがいている
好機だ!!

#855
はやる気持ちを抑える
がむしゃらに攻撃するのではだめだ
私は呼吸を整え、渾身の一撃を放つべく力を溜め始めた

#856
呼吸を整えた事で私は一瞬冷静さを取り戻していた
無駄な力を抜き、集中する
目一杯踏み込みんで流れるように
ここだぁっ!!!!

#857
アッパーとキーンも後方で追撃を図っていた
奴の体でアッパーの爆撃が立ち上る
が、やはりキーンの動きは鈍く槍を投げる事が出来ずにいる

#858
「...っ!!」「......っ」
向こうの方でアッパーが何かを叫んでいる
アッパーはふらつくキーンの体を支え
キーンは毒の槍を構えた

#859
キーンの毒の槍が奴の体に深々と突き刺さった
イヴェルカーナはうめき声をあげて身をよじらせる
槍を投げ終えるのと同時にキーンは倒れ込んだ

#860
イヴェルカーナはふらつきつつも起き上がり
大きく羽ばたいて上空へと飛びあがった
どんどん高度を上げていく
再び移動するつもりだろう

#861
飛び去っていく奴の動きには力がなく、弱っているのが見て取れる
すぐに追い詰めるべきだ
「サモ!!!」
急いで後を追おうとする私をアッパーが呼び止めた

#862
キーンは多量に出血しており、その場に倒れ込んでいた
「す...まん..俺はついていけそうにない....」
「キーン、大丈夫か!すぐに治療を..!!」
「いいんだ。俺の事よりも...奴を早く...追ってくれ」
「必ず...奴を倒してくれ。お前ならきっとできる...」

#863
「痛みが落ち着いたら....俺もすぐに駆け付ける...」
「頼んだぞ...」
キーンはそう言うと、深く息を吐いて静かに眼を閉じた
「.........」
「..............」
「アッパー、キーンの傍についててやってくれ」
「お前一人で行かせられるわけが..」
「頼む。キーンのしかばねをこのままにしておきたくないんだ」

#864
「一人で戦えるのか?」
「分からない。だけど、奴はきっとあそこにいる」
「.......」
「大丈夫、私は大神官だ。必ず戻ってくるよ」

#865
本当は泣き出したい程悲しかった
キーンと一緒に過ごした思い出は決して少なくない
狩りを始めたころ
不慣れな私に狩りの手ほどきをしてくれたのもキーンだった

#866
足を止めてはならない
急ぎ追わなければ....
それが..........
キーンの....意志.......
段々と足が止まる
涙を、嗚咽を抑えられない

#867
泣いてる暇なんてないんだ
でも、立ち止まったりしないから
今だけ
涙を流す事だけ、許してくれ

#868
私が敗北すれば、ヒトも獣人も全て滅ぼされる
それだけは断固として許すわけにはいかない
気持ちを切り替えろ
私は全てを背負っているんだ

#869
ここから先へ踏み込めばもう後戻りはできない
私は目を閉じて深呼吸した
狩りとは
古龍とは
氷の力とは...
集中し、自分が為すべき動きを思い描く

#870
広間の中央でイヴェルカーナは眠っている
神として恐れていた大いなる存在
初めて会ったあの時
私は恐怖のあまり震えが止まらなかった
人間ごときの力では到底敵うはずもないと

#871
私一人で成し得るのだろうか?
もうそんな思いはなかった
父アラシュはただ独りでクシャルダオラを撃退し
母エステリカもまた、単身イヴェルカーナに立ち向かった
私の前にいるのは龍
おまえの前にいるのは狩人だ
決着をつけよう

#872
眠っている獣を起こすにはいろいろな手段がある
溢れんばかりの感情のままに鎚を振りかざすのも良いだろう
しかし狩人が考えるべきなのは、どのような選択肢があり
最も効果が見込める手段は何なのかということ

#873
頭に張り付かれ、奴は朦朧とした眼で起き上がった
イヴェルカーナの眼前にあるのは鋭く反り立った柱
そう、今であれば何ができるのか
その答えが、これだっ!!!!!

#874
イヴェルカーナは朦朧としながらも
何をされようとしているのかを即座に理解した
しかしそれと同時に
もはや抗う事が出来ないのを悟った様子で
悔しさに満ちた表情で叫び声を上げた

#875
アステラの狩人から学んだ技
これまで多くの獣の自由を奪い、何度も窮地を救われた
完璧な撃ち込みを後頭部に叩き込み
イヴェルカーナの巨体は柱を打ち崩すほどに叩きつけられ
大きく倒れ込んだ

#876
もがき苦しむイヴェルカーナに神鎚を振りかざす
そこにいたのは神に恐れをなしていた小娘ではなく
自分が何者かも分からず迷い苦しんでいた面影も消え
相対する獣を打ち砕く覚悟を秘めた戦士の姿がそこにあった

#877
これまで多くの戦いがあった
その全ては動機が異なるとはいえ、全て神の為のものだった
しかしそれこそが、強者と対峙する経験として今の私を形作り
まさしく今、古龍と戦い得る力となっている

#878
湯治の中でクシャルダオラとのせめぎ合いを夢想した
その経験は決して無駄ではなかった
両者の中に、共通した動きの癖がある
奴の攻撃をさばく動きが研ぎ澄まされ
段々と最小限になっていく

#879
それでも、戦いは拮抗し私も手傷は免れない
気迫の強さに押され、渾身の息吹を浴びながら
―――あとわずかで、どちらかの命が潰える
お互いに、その確信があった

#880
満身創痍のふたり
イヴェルカーナはよろめき立つ身で最後の力を振り絞り
向かってくる狩人を見据えながら氷の力を収束する
サモは避ける事を選ばなかった
神鎚を振り上げ、イヴェルカーナへと向かって飛び掛かる

#881
イヴェルカーナの眼前で氷の爆発が巻き起こる
サモの鎚の一撃はイヴェルカーナには届かなかった
瀕死の体で捨て身の一撃に乗り出したサモの体を
極限の力で放たれた氷撃が直撃する

#882
立ち込める氷霧のなか、氷のつぶてが飛散する
力を振り絞って放った一撃にイヴェルカーナの呼吸は荒立っていた
サモの鎚は足元に向かって振り下ろされており
彼女を直撃したはずの氷撃は、その鎚の一撃で打ち砕かれていた

#883
イヴェルカーナの全身に悪寒が走る
自身に向けられた眼差しに戦慄を覚え
咄嗟に身を翻し、飛び去ろうと試みた
サモは龍の動きに合わせるように
その身を捻り、思い切り踏み込んだ

#884
全身全霊で放たれたその一撃は
イヴェルカーナの胴体の真芯を捉え
その身に纏われた氷を粉々に打ち砕いた
冰の龍はその身に秘められた氷の力の全てを失い
力なく大地に叩きつけられた

#885
イヴェルカーナは潰える命に抗うように
再び立ち上がろうとしてみせた
しかし、もはやそれは叶わない
最期にわずかばかりのうめき声を上げて、古龍は斃れた

#886
力尽きたイヴェルカーナを見据えつつ
私の心には、喜びや悲しみなど
一切の感情も生まれ出でなかった
ただ静かに
失われてしまった仲間の命と
私が奪った目の前の古龍の命に対し
神官として、祈りを捧げた

#887
「サモ!!お前....やった...のか?」
「ああ....奴は死んだよ」
「そうか...」
「帰ろう、私たちの里へ」
