MONSTER HUNTER WORLD ICEBORNE
二次創作物語
【第七章】揺らぐ決意
~父、そして母~

#664
里に戻ると、ところどころ負傷者で溢れていた
しかしティガレックスが仕留められたことを伝えると
皆に安堵の声が上がった
「これだけの強者を仕留めたんだ。神への捧げものとして十分だろう。
サモのおかげで神の荒ぶりも鳴りを潜めるに違いない。
さっそく長へ報告に行ってくれ」
「それが..長に会いに行くのは別の件なんだ」

#665
「私は..ヒトの住む大陸の方で、かつて凍て地にいた神を...
殺してしまったんだ」
その場の空気が凍り付いたように静まり返った
ざわめきすらも起こらない
皆の顔が恐怖で引きつっている

#666
「お前、それがどういう事だか分かっているのか」
「かの神はもう凍て地の神ではない。
古龍と呼ばれ、ヒトの手で倒せる存在だった」
「お前..何を言ってるんだ。人間の中で毒されたのか?
俺たち部族はもう神に滅ぼされるしかないんだぞ」
「そうならないよう...長に助言を....」
「お前、すっかり変わってしまったな」
冷ややかな眼差しが私に注がれる
もうここにはいられない
それだけは、ハッキリと分かる

#667
神衣へと着替えた私は長のいる凍て地の頂を目指した
.....もしかしたらこうなるのではないか、と
心のどこかで思ってはいた
神を手にかけたその時から覚悟はしていたつもりだった
しかし..
胸を打つ激しい哀しみと苦しみが私の心を引き裂こうとしていた

#668
長と会い、事の顛末を話した
「サモ、神官として一族を守るために尽力する中では辛い事もあろう..」
「私が至らないばかりに、このような事に...」
「いや、そうではないぞ。サモよ。
かつてこの地に生きていたお前の父親もそうして神と戦っていた」 「え..?」

#669
「お前の身に付けている兜と腰巻はお前の父アラシュのものだ」
「私の父..父はこの地に住んでいたと?」
「そうだ。アラシュは比類なき狩人。
この地に生きるあらゆる獣を圧倒し、人々を守る神官でもあった」
「神官..?私のように神に捧げものを?」
「いや、アラシュは神にその力と武勇を示すことでその力を鎮めていた」

#670
「アラシュの力によりこの地で猛威を振るっていた嵐の神は追い払われた」
「しかし、ある日アラシュは
"ある強大な獣"との戦いの中で命を落としたのだ」
「嵐の神と入れ替わるように現れた冰の神...
それがこの地に住む人間の集落に襲い掛かった」
「儂はその時、アラシュの妻であるエステリカから最後の頼みとして
幼いお前の身柄を引き受けるように頼まれたのじゃ」

#671
「それでは..母はイヴェルカーナ..冰の神の手に..?」
「エステリカは"アラシュを殺した獣"との戦いで大きな火傷を負っていた。
とても戦える力は無かったが..人々を守るため最後の力を振るい..
イヴェルカーナとの戦いの中で命を落とした」
「そう...だったのですか..」
「サモよ、儂は神へ供物を捧げる役目をお前に任じた」
「はい」
「しかしそれは、お前や部族にアラシュのような
神に立ち向かえるだけの力がなかったからじゃ」

#672
「力なきものが生き延びるには知恵を絞らねばならん。
弱者には供物を捧げる事でその牙を避けることしかできん」
「神は自然そのものだというのは長の言葉です」
「そうだな。神..いや古龍と言おう。あれらは自然の力を操るが
自然そのものではない。大自然の力の一端に過ぎんのだ」
「よく..分かりません..」
「古龍自身は神ではない。
いわばあれは神のもたらした大自然の試練といえるものだ」

#673
「では..立ち向かうべきものだと..?」
「お前にその力と勇気があるのなら、そうするのも良かろう」
「これまで通り供物を捧げ続ける道もある。
しかしそれではいずれ気まぐれに向けられた牙を逃れるすべはない」
「.........」
「凍て地に作られた人間の拠点に竜人族の狩人がいる。
お前の両親の事を知っているはずだ。話を聞くとよかろう」

#674
結局は私次第という事だろうか
部族の皆は神を神として恐れている
私は部族の神官として..
いや、私はいまや部族の皆の信用を失った
もはや戻ることもできない......
セリエナへ行こう
竜人族の狩人に会いに行かねば

#675
セリエナに着くと竜人族の狩人は私を待っていたようにたたずんでいた
「アラシュの娘ゼヴァン。私を訪ねてくる頃だと思っていたところだ」
「私を..知っているのか」
「私は調査団がここを訪れる前、先住の人里が健在だった頃に
ここに訪れたことがある」
「では、私の両親とも..?」
「そうだ。会っている」

#676
「君の事は長から聞いていた。訪ねて来た折には全てを伝えてくれ、と」
「ある日この地へと流れついた外大陸の狩人エステリカは
この地でアラシュと出会った。
彼の強さを目にしたエステリカはやがてアラシュと組んで
狩りに出るようになった」
「かつてシュレイド城で黒龍を撃退せしめた激闘の中にも二人はいた。
アラシュは鬼神のような勇猛さを誇り、
エステリカは烈風のような苛烈さを放っていた」

#677
「やがて二人は惹かれ合い、この地にて結ばれるに至った」
「そしてある日、二人は噂立っていた黄金郷へと旅に出ち
そこで遭遇した黄金龍"マムタロト"のかつてない強さに
苦戦を強いられていた」
「その戦いのさなかだ..負傷したエステリカを庇って
アラシュは轟炎を浴び、命を落としたのだ」
「かろうじてマムタロトを撃退したエステリカだったが
受けた傷は深く、狩人を引退するしかなかった」

#678
「しかし、エステリカはその時すでに身籠っていたのだ..
やがてゼヴァン、君が生まれた」
「私が君を"サモ"ではなく"ゼヴァン"と呼ぶのは、
エステリカから直接その名付けを聞いていたからだ」
「黄金郷から持ち帰った黄金で彼女は神鎚と神衣を作った。
双剣使いの彼女がハンマーを作ったのは、君がアラシュのように
力強く逞しい狩人に育つ事を祈っての事だった」

#679
「ある日突如現れたイヴェルカーナに人里が襲われた日、
私は長に君を託すようエステリカから頼まれた」
「人間が全て滅んでしまうとしたら..
いっそ幼少から獣人の中で獣人として育てられる方が
無事に生き延びれるだろうと、エステリカは言っていた」
「しかしそれも、人里の神官アラシュが獣人族との
良好な信頼関係を築いていたからこそできた事だった」

#680
「母は..最期の戦いでなぜ神衣を着て行かなかったんだろう」
「エステリカは自分が勝てないだろう事を分かっていたんだ。
そして、決して逃げられない事も」
「いつしか君が、父アラシュのように人間と獣人を取り結ぶ神官となり
自分に出来なかった事を成し得ると信じて神衣を君に託したんだ」

#681
「私は..しかし私にはもう部族のみんなとは...」
「今の君に必要なのは、隣を歩く友だろう」
「サモ!!!」
聞きなれた声が私を呼ぶ

#682
「アッパー...戻ったのか...」
「何しけた顔してんだ」
「アッパー....私は....」
どんな真実が待っていても
もう迷わない
めげずに立ち向かっていく
そう決めて、ここまで気丈に振舞っていた
でも
アッパーの顔を見た瞬間
私は崩れ落ちてしまった

#683
「私は...ダメだったんだ.......」
「......」
「里のみんなの....信用を失ってしまった.....」
「もう私は神官じゃない。神を殺した私を、
誰もそうだとは認めない」
「じゃあ、誰が神を鎮めるんだよ」
「え....?」

#684
「お前がやらないならオレ一人でやるぞ」
「なに..を?」
「お前は何のために神官やってるんだ?皆に頼まれたからか?」
「それは..」
「皆を守りたくてやってたんじゃないのか?
俺は部族のしがらみはもう忘れろと言ったが、
あいつらを見捨てろって意味で言ったんじゃない」

#685
「守るんだ。みんなを。
たとえ神に牙を剥くことになっても」
「オレ達はそのためにここまで力をつけてきた」
「神に関わるものとして、その責任を負うのが
神官の役割なんじゃないのか?」
「オレ達の力で、神を鎮めるんだ」

#686
「私にはまだ、覚悟ができていない...自信がないんだ」
「なぜだ?オレ達はクシャルダオラだって倒したんだ」
「あれはベルモートの力を借りなければ無理だった。
クシャルダオラを単身退けた父と肩を並べた程の手練れである
母ですらイヴェルカーナには敵わなかったんだ..」
(両親の存在が、デカすぎるのか..)

#687
「立て込んでいる所を失礼!!
サモっていうハンターはお前の事か!?」
突然、筋骨隆々とした老齢の男が割って入ってきた
「あ..あぁ。サモは私だが」
「ちょっと困った事になっていてな!!
お前の力を借りたいんだが」
「どういうことだ?」

#688
「イヴェルカーナのセリエナ来襲を迎え撃つべく
設備を建造しているんだが、完成も間近というこの時に
近辺にイビルジョーが出没したらしい」
「イビルジョーが..?こちらに来るというのか?」
「そうだ。奴はその貪欲な食欲をもとに必ずここに来る」
「平時であれば手練れの狩人を集団で差し向けるのだが
今は砦の防衛網から配置を外せんのだ」

#689
「聞けばお前はベルモートと共に
クシャルダオラを討伐したそうだな」
「......」
「イビルジョーは強大なモンスターだが
青い星であるあいつとお前の二人なら退けれるはずだ」
「ベルモートは既に出立している!!お前もすぐに発て!!
全速前進!!」
「そ..そうか、わかった」
強引な物言いに気圧されるも、確かに事は重大だ
急いで向かおう
