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​【第八章】青い星ベルモート

~喰らい尽くすもの~

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#690

凍て地のキャンプへ向かうとベルモートが待っていた

「大団長から通達は受けたようだな。

 もう一人で行くしかないかと迷っていたところだった」

「あなたなら一人でもイビルジョーを倒せるんじゃないか?」

「いや..それは無理だ。ハッキリ言うが奴は古龍よりも強い。

 正直なところ勝つのは難しいだろう。撃退を狙っている」

「そ...そんな!!神をも上回るというのか!?」

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#691

「実はイビルジョーの若く未熟な個体を相手にしたことはあるんだ」

「その時は倒せたんだが、あいつは異常な変貌を遂げた特殊な個体だ」

「以前とは違うと..?」

「まるで別物と言っていい。桁が違う」

「気を引き締めていくぞ。わずかな気の緩みが死に直結する」

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#692

歩き出した二人だったが、不意にベルモートが立ち止まった

「どうしたんだ?」

「...サモ、俺には故郷にファンディという妻がいる」

「もしあんただけが生き残ったら..ポッケ村にいる妻に....

 愛していると、伝えて欲しい」

「.....わかった」

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#693

「なぜ..あなたは妻を残してこの地に来たんだ?」

「あんたと同じさ..狩人としての高みに登るためだ」

「それは..何か理由あっての事なのか?」

「故郷の地で、定期的に周囲を脅かしている強大なモンスターがいる。

 そいつを狩りたくてな」

「どのような存在なんだ?」

「巨大な....氷の山のようなモンスターだよ」

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#694

氷の岸壁付近に奴はいた

何か..大きい獣のようなものをえている

信じがたい光景を目の当たりにし

忘れかけていたあの時の恐怖が

体の奥底から湧き上がってくるのを感じた

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#695

あ....あれは...

トビカガチの亜種だ....

 

凍て地の中ではさほど強大な存在ではない

しかし..あれだけの大きさをえて持ち運ぶなどと...

なんという強靭なアゴの力だ....

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#696

「サモ!何している!行くぞ!!奴は今、死角が大きい!」

ベルモートは私にを飛ばしつつ、奴の懐に走り出した

奴は私達に気付くと、その圧倒的な首の力で

トビカガチをまるで武器のように振り回した

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#697

奴の激しい振り回しに恐れおののき、攻めあぐねいている私を見て

アッパーはなにやら大筒を取り出して雄たけびを上げた

「おおおおお!!!!オレはやるぞ!!サモ、オレに続け!!!」

彼の持つ筒から激しい火花が発せられた

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#698

イビルジョーがアッパーの火花をかき消すべく

トビカガチの体を激しく地面に打ちつける

氷片がしぶきと共に舞い散る

私はゆっくりと鎚を構えて静かに前を見据えた

ふつふつと沸き立つ闘志が我が身を奮い立たせる

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#699

断続的に襲い来る恐怖を吹き飛ばすように

渾身の力を込めて神鎚を振るった

氷と火花に視界を遮られ

不意に頭部への強烈な打撃を受けた奴は

えられたトビカガチの体ごと、大きく仰け反った

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#700

トビカガチの体を崖下へと投げ捨てた奴は

岸壁を揺るがさんほどに辺りに轟く雄叫びを上げた

死と隣り合わせの戦い

その幕開けとなる宣戦布告の咆哮

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#701

奴がその身を振りかざすたびに大地は砕け、しぶきが飛散する

地を揺るがす剛撃に私は足を取られ、姿勢を保てずにいた

ほんの少し当たっただけでも身を砕かれるに違いない..

かつて私はこの一撃を体感している

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#702

ベルモートが傷を付けた箇所に追撃を入れる

重いっ!!!!!

やはり並の獣とは比べ物にならないほど肉体が頑強だ

その表面は硬さよりも、まるで衝撃を吸収するかのように

強靭な弾力に溢れている

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#703

その手応えに一瞬気を取られたところに

巨木のような後ろ脚の凄まじい回し蹴りが放たれる

胴体がはじけ飛ぶような衝撃

血反吐が飛び散る

私の意識は一撃で吹き飛びそうになった

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#704

なんとか踏みとどまった私は即座に奴と距離を取った

うずくまりたい程の苦痛だが、立ち止まっている余裕はない

ベルモートが奴の気を引いているうちに回復薬を流し込む

苦痛は緩和したが..

この調子で攻撃を受けていてはすぐに限界が来てしまうだろう

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#705

奴が身を屈めた瞬間に合わせ、ベルモートが奴の背に飛び乗る

奴は私達を狙うのをやめ、落ち着かない様子で歩き始めた

背部のベルモートに気を取られている

どうにか振り落とそうとしているようだ

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#706

奴の気が逸れている隙に援護攻撃を加えようと素早く駆け寄る

神鎚を振りかざそうとしたその時、フッ..と奴の姿が消えた

何が起きたのかわからず脳が混乱する

あれだけの巨体が消え失せ..いや

左手にわずかに尻尾の残像が見えた

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#707

後方から激しい着地音が響き渡る

あの巨体が、一瞬であそこまで跳躍したのだ

その脚力の凄まじさ

速過ぎて目で追えなかった

ベルモートはまだ振り落とされず、背部にしがみついているようだ

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#708

奴は上体をもたげ、激しく地面を踏み鳴らす

その暴れ様の激しさに、離れた場所にいる私ですら

揺れの影響を受ける

あのような体勢の中で、ベルモートは大斧を構え

奴に一撃を振りかざそうとしていた

 

なんという根性と精神力だ...

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#709

どうにか奴の動きを止めなければ

私は奴の足元まで詰め寄り武器を構えた

その時、イビルジョーの頭部で

何かが激しく炸裂するような激突音が起きた

ここまで猛威を振るっていた奴の巨体が

衝撃で大きく怯み、轟音を発しつつ地面に倒れ込んだ

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#710

ベルモートが何か秘めたる技を放ったのだろう

音を聴く限りでもその威力の絶大さが伺える

ようやく生まれた好機、私は意を決し追撃に乗り出した

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#711

ベルモートは奴に摑まっていた際の消耗が激しかった様子で

すぐに追撃には加われない様子だった

私がその分の追撃の手を担わねば!!

私の攻撃に合わせ、奴の腹部で爆発物が炸裂した

アッパーが投げたもののようだ

きっと鬼面族の里で獲得したものに違いない

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#712

ようやく立ち上がった奴は、わずかに足取りにふらつきが見えた

その一瞬を私達は見逃さない

即座の判断で頭部へフックを飛ばす

ベルモートも同時にクラッチを試みていた

しかし、今はベルモートはまだ消耗しているはず

「私に任せてくれ!!」

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#713

強烈なクロー攻撃で強引に向きを変える

この強靭な肉体であっても

これだけは他の獣と同様のコツが通用するようだ

流れるような動きでスリンガーの斉射を叩き込む

さしもの奴も成すすべなく岸壁に叩きつけられ

再び地面に倒されるほかなかった

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#714

倒れ込んだイビルジョーを追撃すべく鎚を構えた時

視界の端に見慣れない装置のようなものが映った

何やら盾のような..車のような..

気を取れらている場合ではない

私は奴の頭を何度も叩きのめした

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#715

奴は両足を勢いよく振り上げるとまるで振り子のように

スッと立ち上がった

アッパーの構えた装置から弾丸のようなものが連射される

それらは空を切ってしまったが、放たれた弾丸は

着弾した向こうの方で激しく爆裂した

「そっ..それはなんだ!?」

「鬼面族から譲り受けたスリンガー砲だ!!」

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#716

アッパーは奴の振り返りざまに弾丸を叩き込んだ

顔面に直撃し、奴は大きく怯みを見せる

まさか爆撃する車とは..

アッパーの攻撃力は鬼面族の技術によって

大幅な進化を見せていた

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#717

痛烈なる砲撃

しかしそれはいたずらに奴の怒りを買っただけだった

イビルジョーは大きく息を吸い込むと

眼前に赤黒く燃えさかる爆煙を噴き出した

私はその動きを察知し逃れることができたが

アッパーはその噴煙の中に飲み込まれていった

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#718

「アッパー!!無事か!?」

「大丈夫だ!!車体でなんとか凌ぎきれた!」

ホッと溜め息をついたのも束の間

標的を変えたイビルジョーに阻まれ

気付けば私は壁際に追い詰められていた

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#719

足元をすり抜けざまに一撃を見舞ってやろう

素早く懐に入り込み、思い切り振りぬいた神鎚は空を切った

その瞬間まであったはずの奴の足がない

私の頭上を大きな影が覆った

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#720

絶対的な危険を感じ、全身から汗が噴き出す

"避けなければ"

咄嗟に飛び退いた、その場所を

イビルジョーの強烈な後ろ足が大地ごと踏み砕く

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#721

あ..危なかった..

どうにか致死的な一打を受けずに済んだ、と

一瞬気が緩んだ私に、奴は連続で猛攻を繰り出す

姿勢が崩れ無防備になっていた私はそれらを凌ぎきれず

まともに連撃を喰らい吹っ飛ばされた

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#722

無造作に放たれた攻撃だったためかどうにか耐え凌ぐことができたが

奴は痛手を受け素早く立ち上がれない私に食らいつこうと

牙を剥き、押し迫ってきた

これは..避けられない

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#723

奴の牙が私に食らいつこうとしたその時

側面から走り込んできたベルモートが首元に斬りかかった

奴の頑強な肉体が重い斬撃を受け、一瞬大きく歪みを見せる

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#724

奴は踵を返し、立ち去って行った

危なかった

今のは死を覚悟した

独りであったなら確実に命を落としていただろう

奴が向かったのは里の方向だ..

追わなければ

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#725

奴は小型の獣を襲いつつ、だんだんと里の方へ迫っていく

どうすればいい...?

どうすれば奴を止められる..?

私は焦燥のあまり

狩人としての心得が抜け落ちていたことを思い出した

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#726

奴の攻撃は激しく、凌ぐのは難しい

まともに打ち合っていては危険が大きすぎる

私は回避に重点を置きつつ、奴の動きの癖を探っていた

どこかに付け入る隙があるはずだ

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#727

アッパーが時折放つ火花の筒は奴に痛手を与えつつ

奴の視界を遮ってくれている

注意を逸らしている間に隙を作れるかもしれない

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#728

奴の動きを伺っていると

不意にベルモートが奴の頭に取り付いた

よく見ると何か黄色い外套のようなものを羽織っている

彼は彼で、生じた機になにかを画策していたのだろう

あれはなにか特別な品物に違いない

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#729

ベルモートが奴と斬り結んでいる隙に私は罠を仕掛けた

闇雲に加勢に出ても、奴は私たち二人まとめて

容易に吹き飛ばしてしまえるだろう

ここは彼を信じ、私は更なる攻撃のキッカケを作り出す

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#730

ベルモートが私の思惑に気付き、奴を誘導する

痺れ罠にかかった!!

僅かな隙だ。有効に活かさねば

しかし私の狙いは別にあった

ここで痛手を与えるのではなく、弱打でも手数を稼がねば

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#731

ベルモートからが飛ぶ

「サモ!及び腰になってるぞ!チャンスには恐れずに攻めろ!!」

「恐れてるわけじゃない!理由があるんだ!私を信じてくれ!」

イビルジョーはとてつもない獣だが

それでも、そろそろのはずだ

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#732

拘束が解け、奴は再び暴れ出した

ベルモートは積極的に近距離で攻め入っていたが

奴の攻撃を浴びた折に纏っていた衣がはじけ飛んでしまった

猛烈な打撃だったはずだが彼は無傷でいる

あれは..攻撃を凌ぐことができる道具だったのか

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#733

不意に、無理な攻撃姿勢でベルモートの体勢が崩れた

イビルジョーが彼を踏み砕こうと足を振り上げる

「危ないっ!!!」

私は彼を突き飛ばそうと、我が身を顧みず走り出した

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#734

イビルジョーの強烈な踏み付けが大地を揺らす

彼はわずかに身をよじらせようとしたが

かわす事はかなわず、踏み付けの直撃を受けてしまった

私は彼に手を伸ばそうと駆け寄っていたが一歩届かず

踏み付けの衝撃の余波で一緒に吹っ飛ばされてしまった

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#735

「ベルモート!!」

彼は倒れ込み、返事をしなかった

背後で大きく倒れ込む音がした

神鎚の睡撃効果がようやく効いたようだ

狙い通りになった...とはいえ

今は急ぎ彼の治療をせねば

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#736

ベルモートの脇腹はれたように歪んでいた

骨や臓器に損傷を負っているようだった

持っていた秘薬を使うと、彼は意識を取り戻し

血反吐で咳き込みながらも、痛みを押して立ち上がった

「奴が起きないうちに、やるべき事をやるんだ」

彼の動きに乱れが見える

すぐに動けるような状態ではないはずだ...

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#737

ベルモートは気力を振り絞り渾身の斬撃を放った

大振りの動きに体は悲鳴を上げ、口から大量の血が噴き出す

イビルジョーは眠りから覚め、すぐさま飛び起きた

危険だ..!!

その体では奴の攻撃は避けられない!!

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#738

ここは一旦引かねば..!!

彼を担いで、どうにか狭い通路まで逃げ延びよう

ベルモートの元に駆け寄ろうとした時

彼は素早くフックを飛ばし

寝起きで朦朧としているイビルジョーの頭に摑まった

瀕死の身でありながらあまりにも危険極まりない暴挙

戦慄と共に全身に鳥肌が走った

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#739

間髪入れず、彼はスリンガーを斉射した

非の打ち所のない完璧な飛ばし方だ

勢いよく壁に叩きつけられイビルジョーは転倒した

ベルモートは受け身が取れず、雪面に倒れ込んだ

「ベルモート!!」

「追撃....してくれ..!!今しか...ない」

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#740

「しかし...」

迷いが生じる

この隙にベルモートを連れ出すべきではないか

だが..彼は決死の行いで追撃の好機を作り出した

どうすれば...

 

躊躇している間にイビルジョーは立ち上がってしまった

意を決し、奴の動きを牽制すべく鎚を振りかざす

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#741

ここで私が敗れれば彼は殺されてしまう

絶対に引けない!!!

沸騰するような決死の覚悟を以て

奴を上回るほどの狂暴な闘志で

この身が壊れるほどの死力で放った猛撃は奴の顔面を打ち砕き

折れた牙が辺りに飛び散る

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#742

奴はその一撃でたじろぎ、慌てた様子で立ち去って行った

あちらの方角は...里とは反対だ

また戻ってきてしまうだろうか?

どうする..?追うべきか..

いや、まずベルモートを安全な場所へ...

彼はどこだ?

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#743

よく見ると、立ち去ろうとしているイビルジョーの体に

ベルモートはいつの間にかしがみついていた

何をやってるんだ.....

何やってるんだ!!!!!

本当に死んでしまうぞ!!

何がしたいんだ!!!

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#744

どうにか彼を止めようと急いで追いかける

ベルモートは急ぎ足で去っていく奴の体に

なにか泥のようなものをねし付け、奴の体から離れた

「何をしたんだ?」

「こやし玉だ。モンスターの嫌う臭いを発する塊だよ」

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#745

「痛い目を見て立ち去ろうとしている所に

 臭いで追い打ちをかけたのさ..

 ここは嫌な所で、もう戻ってきたくないと印象付けるんだ」

奴は高台を飛び越え、凍て地の果ての方へと消えていった

あの先を越え崖を下っていくと

そこから先は人間では立ち入れない場所だ

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#746

ひとまず安全な場所へ移り、身を落ち着ける

ベルモートの体はひどく痛めつけられていたが

薬品による応急的な治療を行い、ひとまず命の危機は脱したようだ

「無茶をし過ぎだ...これはしばらく療養が必要だぞ」

「そうだな...正直、死ぬかもしれないと思った」

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#747

「俺一人では難しかったろう。あんたが来てくれて本当に助かった」

「いや...私は今でも震えが来てるよ。

 もしもう一度来られたら撃退できる自信なんてない」

「だが、撃退できた。サモ、自信を持つんだ。

 相手がどれだけ強かろうと、決断を迷うな」

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#748

「さて..俺はセリエナで治療をするが、あんたはどうする?」

「サモ、ベルモートと一緒に行け。お前も治療が必要だ」

「いや、私は獣人族の里に戻ろうと思う」

「....大丈夫なのか?」

「確かに治療も必要だ。だが、その前に....」

「私は、神官としての私自身に決着をつけたい」

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#749

「決意が定まったいい顔だ」

「その顔、俺が憧れていたかつてのエステリカにそっくりだよ」

「頑張ってくれ。あんたならきっと部族を一つにまとめられる」

ベルモートは微笑みつつ、私を送り出した

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