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​【第五章】覚悟

​~再会~

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#383

ある日、谷の深部で死亡したティガレックスを見つけた

奴の死骸の傍にたたずんでいる狩人には見覚えがある ....ベルモート

彼がティガレックスを倒したのだ

私は..嬉しさよりも、悔しさと虚しさで

胸が張り裂けそうな気持ちでいっぱいになった

 

「サモか..獣纏族の相棒はどうした?」

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#384

「アッパーは..そいつとの戦いの中で......はぐれたんだ」

 

"死んだ"とは言えなかった

 

「そうか..」

「場所を変えよう」

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#385

「私は奴には勝てなかった。

 どんなに立ち向かっても奴の力の方が上回っていたんだ」

「...サモ、あんたは奴と戦った時、

 持っている道具や技術の全てを試したか?」

「い..いや、あの時はがむしゃらに..」

 

「じゃあ、次はあんたが勝つかもな」

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#386

「力ある者は相手を打ち砕くだろう。

 技が巧みな者は相手を翻弄するだろう。

 だが、それは戦士の戦い方だ」

「知恵ある者は相手を封じるだろう。

 周到な者は環境全てを武器とするだろう。

 それが狩人の戦い方だ」

 

「サモ、俺たちは戦士じゃない。狩人だ。

 それを忘れない限りあんたには勝機がある」

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#387

「俺がまだ駆け出しの若造だったころ、

 ティガレックスにやられそうになった事がある」

「その時はエステリカというハンターが助けてくれた。

 彼女は恩人であり、俺の目標だった」

「その時に言われたんだよ。

 "青年、あんたは戦士じゃなく狩人だろう"ってな」

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#388

「やはりエステリカ..彼女の事を知っていたのか」

「あぁ..若い頃に数回会ったっきりだが。

 寒冷地に移り住んだと聞いていた」

"未開の寒冷大陸へ向かった調査員が青い髪の狩人を見た"という

 噂を聞いた時にはてっきり彼女だと思ったよ」

「実際会ったのがあんただったわけだ。

 エステリカよりもずっと若いが、面影があった」

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#389

「前に会った時に、なぜ言わなかったんだ?」

「初対面で聞くには不躾だと思ったからな。

 エステリカとは家族なのか?彼女は今どうしてる?」

「いや..私も実際に会った事はない。おそらくは母..だろうと思うんだが、

 ハッキリとしたことは分からないんだ」

「事情があるのか..」

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#390

「ひとつ..聞きたい」

「あなたはなぜ..古龍に挑むんだ?」

「古龍か..奴らの力は絶大だ。俺たち人間を滅ぼせる力を持っている」

「そのとおりだ!!だったらなぜ!?」

「それでも、どちらが勝つかは戦ってみるまで分からないさ。

 ただ持てる全てを駆使して狩りに行くだけだ」

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#391

「あなたはこれからどうするんだ?」

「消息を絶ったイヴェルカーナが龍結晶の地で現れたと聞いている。

 そこへ行ってみるつもりだ」

「はぐれた相棒、見つかるといいな」

「..ありがとう」

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#392

久しぶりに人と話して正気に戻れた気がする

お茶をすすり、気持ちを落ち着ける

これからの事はまだ分からないが

ひとまず、アステラに戻ろう

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#393

久しぶりにアステラの自室へ戻ってきた

部屋の管理をしている獣人族の職員は私を見て仰天した

「サモさん!!今まで何をしてたニャ!?

 緊急の言付けを預かってるニャ!!」

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#394

「台地のかなで族からだニャ!!

 すぐに陸珊瑚の台地へ向かってほしいニャ!!」

台地のかなで族?

会ったことはないが..

私の事を知っているのか?

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#395

陸珊瑚の台地へとやってきた

なんとも幻想的な場所だ..

獣人の職員からかなで族の里への地図を貰っている

さっそく向かおう

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#396

かなで族の里へたどり着いた

「あんたがサモか。こっちへ来てくれ」

ここの部族はヒトの言葉を喋れるようだ

促されるまま奥へ進むと、そこに居たものに私は驚愕した

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#397

まぎれもないアッパーがそこにいた

私は彼に呼びかけるのも忘れ、言葉を失っていた

「サモか、無事だったんだな」

彼の言葉はどこか力なく、弱々しかった

 

「アッパー..生きていたのか....」

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#398

「あの時..オレは奴にかぶりつかれたまま

 骨クズの中に埋もれて気を失った」

「奴はその後立ち去ったようだが、

 谷のぶんどり族が瀕死のオレを見つけて救助してくれたんだ」

「しかし、噛まれた傷があまりに重傷で

 ぶんどり族では治療ができなかった。そこでここに運びこまれたんだ」

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#399

「それなら..なぜすぐに知らせてくれなかったんだ..」

「意識が戻ってすぐに便りを出したよ。

 無事ならばアステラに戻るだろうと思ったからな」

「直接出向けなかったのは、まだ治療が終わっていないからだ。

 危機は脱したが、まだまともには動けない」

 

「お前の方こそ、来るのがずいぶん遅かったな」

その言葉に、私はカッとなった

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#400

「おまえっ!!私がどんな思いでっ...!!」

言葉を最後まで言い終えず、涙が次から次に溢れてくる

腹立たしさで手が震える

 

それでも

 

生きていてくれて、嬉しかった

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#401

アッパーの治療は当分かかるとの事だったので

その間、気の谷の獣たちを相手にしながら

なまった体を鍛え直すことにした

この一か月間、戦いを避けるために奴らを

よく観察する必要があったので

その分奴らの生態はある程度分かっていた

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#402

色んな場所を練り歩いて気付いたのだが

一見何も無いような場所でも、あらゆるところに

罠として使えそうなものがある

今回はそういうものを戦いに用いる事を意識して

獣たちを狩っていった

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#403

私一人ではあったものの、罠などを用いることで

明らかに狩りがグッと容易になった

ドスギルオス、オドガロン、ラドバルキン

バフバロ、アンジャナフ亜種といった獣たちを

そう苦労もなく打ち倒すことができた

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#404

ティガレックスにも遭遇したが、挑まなかった

もう少し時間をかけた方がいい

また、谷の深部にいるディノバルド

その亜種..らしいのだが

そいつへの挑戦も見合わせた

ディノバルド亜種は酸と斬撃を駆使してくる獣で

私にはまだ酸に対抗する手段がないためだ

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#405

気の谷の獣を一通り狩る頃にはだいぶ勘も戻っていた

陸珊瑚の台地へも足を延ばした私は

少しずつ手頃な獣を狩り進んでいた

陸珊瑚の台地は高低差が激しいものの

他の場所と比べると環境の厳しさを感じる場面は少なく

快適に狩りができた

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#406

討伐依頼書には目を通していたので

生息する獣の危険度はあらかた分かっていた

とりわけ危険な個体には挑まぬようにしようと決めていたので

そこまで苦戦するような場面はあまりなかった

陸珊瑚の台地ではツィツィヤック、パオウルムー

レイギエナ、リオレイア亜種、プケプケ亜種を仕留めた

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#407

そんなある日、陸珊瑚の台地のとある場所で我々の同胞を見つけた

知らない同族..ではない

凍て地で一緒に暮らしていた顔見知りだ

どうやらアッパーの負傷の件で凍て地にも連絡が行っていたらしく

キーンが確認のために部族の者をここに寄こしたらしい

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#408

別の日に違う場所で再び同胞を見かけた

先日とは違う者だ

いったい何人で来たのか聞いてみた

「たくさん来てる!!ここだけじゃなく他の場所にもいるぞ!」

「もし狩りの最中に出会ったら助太刀するからな!!」

同胞のみんなもこちらの大陸に進出してきているのか..

これは心強い

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#409

ここまでの狩りで得た素材を使って装備を新調した

中でもラドバルキンの鎚には催眠効果が秘められており

その催眠効果は神器である微睡の鎚よりも強い

相手を眠らせることができるというのは

狩りを行う上でことのほか有利に働く

なにより大骨が無骨に固まった趣きが非常によく

すっかり気に入ってしまった

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#410

アッパーの治癒を待つこと一ヶ月

すっかり元の状態まで動けるようになったそうで、さっそく迎えに行った

 

療養している間、台地のかなで族から

部族の楽器の秘伝を教わっていたそうだ

狩りにも役立つとの事だが、楽器をどうやって..?

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#411

アステラに戻った私たちは久しぶりに二人で並んで座った

お互い黙ったまま、夕陽を眺める

約二か月間私たちは離れ離れだった

敗北を喫し心身共に深い傷を負った

これから先、再び狩りに出るにはまず互いの気持ちを確認する必要があった

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#412

「オレ達、まだまだだったな」

「ああ。正直死んでもおかしくなかったな」

「オレがお前を狩りに誘ったのに、オレはお前を守り切れなかった」

「そんな事を気にしてたのか?

 お前が私を庇ってくれたの、ちゃんと見ていたぞ?」

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#413

「なぁアッパー。確かに私は荒地での事でお前を責めたが、

 我が身を盾にしたのは気持ちが前に出過ぎてたんじゃないのか?」 「.......」

「私はお前に死んでほしくない。自分の身は大事にして欲しいし、

 お前の事は信じてる。がむしゃらに前に出なくったって大丈夫だよ」

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#414

「気持ちはありがたいんだがな、サモ」

「オレは体を張った事を間違ってたとは思ってない。

 同じような状況があれば何度でも身を挺する」

「アッパー、お前...」

「オレはその覚悟が出来てる。もうそう決めてるんだ」

「私にはお前を失う覚悟なんて..」

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#415

「必要なのは失う覚悟じゃない。守り抜く覚悟だ。

 失う恐怖に身をすくませていたら冷静じゃいられなくなる」

「......」

「サモ、やれるか?これからの戦い」

私よりも重い傷を負っていたはずのアッパーは

私のように心は折れていなかった

その眼差しには硬い意志の色が見える

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#416

「あぁ..やれるとも」

「次はこんな無様な負け方はしない。

 これからの私は、お前にただ守られてるような私じゃないぞ」

「あぁ、それでこそだ」

大きな敗北を味わった

でもきっと、それは私たちをより強くする

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#417

たたずんでいたところを編纂者に声をかけられた

なんでも大蟻塚の荒地でディノバルドが現れたらしく

緊急の討伐依頼が来ているとの事だった

依頼の危険度表記ではティガレックスと同格だ

油断ならない相手であろうが、この依頼を受けることにした

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