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​【第五章】覚悟

~燃ゆる剣撃~

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#418

大蟻塚の荒地もずいぶん久しぶりだ

狩りの準備は万端

これまで試した事のない道具も持ってきている

さっそく奴を探そう

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#419

気の谷で見た亜種はかなり大型だった

今回のも同じくらいの大きさはあるだろう

遠くからでも視認できるはずだがまだ見当たらない

砂地の方だろうか

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#420

道中はじけクルミを見つけた

こいつはスリンガーの弾の中でも優秀なやつだ

わずかではあるが隙を作り出せる手段になる

持っていこう

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#421

砂山の向こうに黒光りする大きな背びれが見えた

奴に違いない

今の位置なら背後を取れるはずだ

私は身をかがめ、砂山に身を隠しつつ奴に忍び寄った

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#422

やはり、大きい...

しかしこれだけの巨体だがティガレックスと違い二足歩行 動きは鈍重だ

奴はこちらには気付いていない

ゆっくりとした歩みに合わせ静かに追走する

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#423

壁際まで来たところで頭部にクラッチする

突然の事でディノバルドは後方に飛びのくが

何が起きたのかまだ理解できていない

気が緩んでいる今ならアレが通用するはずだ

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#424

顎骨への強烈なクロー攻撃にディノバルドはたまらず向きを変える

鎧の獣との戦い以降もあらゆる獣でこれを試した

もう充分にコツを掴んでいる

スリンガーの充填もバッチリだ!!いくぞ!!

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#425

スリンガー弾の斉射によりディノバルドの体は勢いよく押し出されていく

これだけの巨体でもこの技には抗えない

いつでも通用するワケではないが、

虚を突ければ必ず極まるくらいには練習してきた

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#426

壁に激突した奴の巨体が砂地に倒れ込む

奇襲としては最高の滑り出しだ

このまま一気に体力を奪ってやろう

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#427

長期戦は必至だろう

狙うは頭部だ

削撃の秘技でるように頭部を叩きつける

うまく傷が入った..と思ったその時

ふと、視界の向こうに黒い何かが映った

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#428

黒い何かは突然戦いに割って入ってきた

縄張り争いだろう

砂煙でハッキリと姿が見えないが、

気を付けて立ち回れば有利に活かせるはずだ

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#429

けたたましいき声をあげたそいつには見覚えがあった

あれはパオウルムーの亜種だ!!

あいつは催眠の力を持つ煙を吐き出す

私も何度か煮え湯を飲まされた記憶がある

 

しかし、現状これは使える!!

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#430

奴らは取っ組み合いを始めた

私は攻撃の意識がこちらに向かないよう注意しつつ

しかし決して離れ過ぎないように立ち回り、機を伺う

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#431

パオウルムーが放った碧色の煙がディノバルドの体に浴びせられる

それに合わせて私もラドバルキンの骨鎚で一撃を与える

その瞬間、ディノバルドの動きがピタリと止まった

まるで遠くを見つめているような..

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#432

ディノバルドはゆっくりとその場に崩れ落ちた

睡撃が入ったのだ

パオウルムーは満足した様子で飛び去って行く

こんなことを言うのは甚だおかしいが

なんていい仕事をしてくれたんだ!!

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#433

さて 目覚めの一撃は気持ちいいものが良いだろう

強敵を相手にしながらも

私はだんだん楽しくなってきた

 

さぁ、起きろ!!

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#434

強烈な打撃を受け慌てて跳び起きた奴の頭部に更なる回転撃を加える

寝起きで動きが鈍い今が好機だ

調子が戻らないうちに一気に攻める!

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#435

あまりに一方的な展開によほどはらわたが煮えくり返ったのか

憤怒の様を露わにするように奴は激しい叫び声を上げた

調子に乗っては危険だ

一旦距離を置こう

アッパーが笛を取り出し奏でだした

何をする気だ..?

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#436

アッパーの笛の音を聴いていると、ふと周りの音がぼんやりと聴こえ出した

まるで遠くの音を聴いているような..

奴がすかさず身じろぎするほどの怒号を発したが

全く気にならなくなっていた

これは..演奏の効果なのか

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#437

剣豪ともあだ名されるほどの大振りの刃を尾に持つ獣の怒りはすさまじく

私を真っ二つにしようとこちらに迫ってくる

さて、ディノバルド卿

あいにく私は剣士ではないのだ

私は痺れ罠を設置して後退した

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#438

巨大な獣たちの武器を相手取って打ち合えば

人の身でその巨撃に太刀打ちはできないだろう

しかし我々狩人は

おまえたちの一撃をかいくぐり、その動きを封じる

 

さぁ、覚悟はいいか

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#439

流れるような連撃で、奴の頭部の角が砕け散る

奴の甲殻は非常に頑強だが

ハッキリとした手ごたえがある

削撃の技は目に見えて効果を発揮しているのだ

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#440

劣勢で場所が悪いと判断したのか奴は移動を始めた

確かにこの砂丘では奴の攻撃は私たちには当て辛いだろう

しかし私に言わせれば

今お前が向かっているのはお前にとって更なる劣勢を招く場所だぞ

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#441

追撃を前に、私はスリンガーの弾を入れ替えた

 

「なにを付けたんだ?」

 

「ふふっ、見てのお楽しみだ」

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#442

奴は高台の穴の中で待ち構えていた

私達が追ってくるのならここを通るだろうと判断したのだろう

迎撃の手としては悪くない判断だ

だがお前が相手にしているのは

ただぶつかっていくだけの獣ではない

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#443

奴がこちらに気付き、迎撃の姿勢を取る

私はこちらを凝視している奴の目線めがけ、スリンガー弾を放った

たちまち閃光が辺りを激しく照らす

奴は虚を突かれた様子で、たまらずにのけぞった

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#444

通路で待ち構えるという事は

視界を遮る手立てはないという事だ

視力を奪われもがいている奴の頭部にクラッチする

狭い場所を選ぶなら、壁に叩きつけられるのは覚悟してもらおうか

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#445

閃光で狼狽している今なら容易に極まるだろう

クロー攻撃で向きを変える

さぁ、飛べっ!!!..........

 

あっ....

スリンガーの弾が無い

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#446

仕方なく咄嗟に頭部の削撃に切り替える

危なかった

閃光で目眩ましをしていなかったら斬り捨てられていただろう

 

肝心なところで迂闊なのが私の悪い癖だ

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#447

目眩ましも覚めたようだ

一旦距離を置いた方がいいだろう

離れて奴の出方を伺っていると、奴の口元から揺らめく炎が零れ落ちる

 

これは..まずいっ!!

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#448

なにをされるのか見当はついたが反応が遅れてしまい

私もアッパーも火炎弾の直撃を受けてしまった

炸裂した火炎の衝撃で体は吹っ飛ばされたが

そこまでの傷は負ってはいない

火竜のそれと比べると威力には劣るようだ

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#449

火炎弾が当たった事で味を占めたのか

奴は火炎弾を次々と放ってくる

 

かわすのは容易だが、どうにかアレを打開せねば

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#450

火炎弾を潜り抜けるように奴の懐に潜り込み一撃を入れる

すると奴は身を屈めて尾にかじりつき、力を溜め始める

ふと我に返り、背筋がゾッとした

 

ここは奴の刃の間合いだ

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#451

一 刀 両 断

まさにそれを体現せんばかりの強烈な横薙ぎの剣閃

その剣筋が私を切り裂く刹那、かろうじて身を翻し

紙一重でかわすことができた

が止まらない

あれをまともに受ければ生きてはいれない

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#452

火炎を刀身に宿し、まばゆく輝く剣尾をちらつかせる

こうなっては迂闊に近づけない

ふと私は肩口から出血しているのに気付いた

先ほどの斬撃を完全にはかわせていなかったようだ

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#453

アッパーが奴の後ろから攻撃し注意を逸らす

その隙に距離を取りつつ急いで回復薬を流し込んだ

負傷した痛みがみるみる引いていく

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#454

すぐにアッパーのもとへ駆けつけ応戦する

刃の動きに細心の注意を払わねば

私はどうにかこいつの動きを止めるすべがないか思考を巡らせた

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#455

横殴りの殴打を加えた折、不意に奴が横転した

二足歩行である分、足への衝撃で姿勢を崩しやすいのかもしれない

 

好機だ!!

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#456

倒れた奴に追撃を加えているとフラフラと奴が立ち上がった

....?様子がおかしい

奴の足取りがおぼつかない

どうしたんだ?

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#457

奴はそのまま倒れ込み、眠ってしまった

ラドバルキンの鎚の力だ

先ほど眠ったばかりだというのに

聞きしに勝るさすがの睡力だ

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#458

眠っている獣には爆薬が効果的だと聞いていた

私は持ってきていた爆弾を取り出した

「そんなものどこに持っていたんだ?」

「組み立て式だよ。この樽に爆薬が入ってる」

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#459

近くにあった石を拾い、スリンガーで発射する

石は樽に命中し、轟音と共に爆炎が立ちのぼった

これは確かに..ひとたまりもないだろう

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#460

「仕留めたか!?」

「いや、まだだっ」

そんな甘い相手ではないのは分かっている

私はすかさず突撃し、朦朧と起き上がるやつの顎元を殴り飛ばした

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#461

爆発を受けて狼狽したのか、奴は慌てて逃げていった

しかし足取りはまだ力強い

決定打ではなかったという事だ

私は気を引き締めつつ奴の後を追った

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#462

狭い通路の途中で奴は立ち止まった

ここで迎え撃つつもりだろう

私は武器を研ぎ直し、装備を整えた

..そういえばもうひとつ持ってきていた道具があったな

このような狭い通路なら確実に活かせそうだ

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#463

奴がこちらに気付くのに合わせて缶入りのネットを起爆させる

「なんだ?何を仕掛けた?」

「いいからこっちへ来い!奴を引き付けるんだ!!」

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#464

私達を追い、ネットに足を踏み入れた奴の巨体が地面に沈む

「落とし穴か!!こんな簡単に設置できるのか!?」

「あぁっ!便利だろう!?」

武器を構え、もがいている奴に突撃をかける

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#465

逃れるすべのない奴の頭に渾身の一撃を叩き込む

何度も、何度も、何度も

一撃を入れる度に奴の装甲の破片が飛び散った

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#466

どうにか穴から抜け出した奴は激しい咆哮を発した

しかし奴は攻撃してくることはなく

踵を返し更に逃走することを選んだようだ

足取りが重くなっている

もう一息だ

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#467

奴は沼地を越え、さらに奥へと逃げようとしている

もう日が沈もうとしており、辺りは暗くなり始めていた

 

たとえ夜になろうとも逃がしはしない

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#468

岩影で陽が遮られると途端に辺りは薄暗くなった

岩間の向こうで奴が待ち構えている

薄暗闇の中で奴の甲殻の燃えるような熱線が浮かび上がっていた

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#469

赤々と燃えるそれは、その身の内に蓄えている闘志の様を現すようだ

最後の命を燃やし、私に真っ向から戦いを挑んできている

もう後がないと腹をくくっているのだ

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#470

その怒涛の攻めは凄まじく、気力を一心に振り絞った猛撃は凌ぎ難い

しかし限界の色は隠せない

 動きの合間のわずかな息の乱れを私は見逃さない

隙を見て頭部にクラッチし、スリンガーの斉射で岩壁に叩きつけた

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#471

ずっと考えていた

狩人の戦い方で相手を追い詰めるということ

 

しかし武器を取って狩りに用いる以上

それを用いて打ち合う時は戦士の如く

むき出しの闘志で、相手を打ち砕くのだ

巨獣を相手取る狩人はその二面性を併せ持たなければならない

それが私の出した答えだ

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#472

容赦のない私の猛攻に耐えつつどうにか起き上がろうと

体勢を立て直す奴の軸足を強烈に叩き折る

大きく転倒した奴の頭部に更なる追撃を加える

苦しみもがく奴に反撃の隙は与えない

ふと、奴は力尽きたように動きを止め沈み込んだ

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#473

倒したのか?

いや、様子が違う

 

眠っているんだ

この鎚の催眠の力はどうやら神鎚を大きく上回るようだ

まさか一度の狩りでここまで眠らせることができるとは

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#474

ここまで弱った状態ではそう簡単には起きないだろう

幸いキャンプがすぐそばだったため

私は一旦キャンプへ戻り、爆弾を補給して戻ってきた

二つの大樽爆弾を設置する

何度も眠らされ爆薬で起こされるディノバルドの身を思うと

少し哀れにも思えた

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#475

当たりの闇を照らし出すように大きな爆炎が上がった

奴は爆熱に悶え、身をよじらせるように飛び起きた

弱っているといえどもまだ動ける気力が残っている

最後まで集中を切らしてはならない

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#476

爆炎で視力を奪われたのか、まだ朦朧としているのか

奴は私の姿を捉えておらず、辺りを見渡した

隙だらけだな

申し訳ないがダメ押しをさせてもらう

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#477

巨体であるがゆえに

壁に叩きつけられた時の衝撃は相当なものだろう

スリンガーの斉射で岩壁に激突した奴の首元から

激しく折れるような音が聞こえた

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#478

倒れ込み、わずかなうめき声を上げて奴は動かなくなった

倒したのだ

ティガレックスと同格の獣を

優位を崩すことなく追い詰めることができた

私達は狩人としての成長を身に染みて感じていた

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#479

長丁場で疲れた私たちは座り込んで体を休めていた

夜風が気持ちいい

「なぁ..ヒトが神に挑むの、アッパーはどう思う?」

私は、ずっと考えないようにしていた事をアッパーに尋ねた

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#480

「私は..神官だろう?神の為に獣を狩る女だ。その神に逆らうなんて..」

「オレは部族の習わしなんてわかんねぇ。

 神は自然そのものだっていう奴もいるけど

 要は強くて逆らえないから貢ぎ物を差し出して許しを乞うって事だろ?」

 

「乱暴な言い方だな」

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#481

「ヒトには信仰ってやつがあるんだろ?

 サモ、お前の考え方はヒトのそれっぽい感じがするよ」

 

「部族のみんなは違うっていうのか?」

 

「確かに神は恐ろしいよ。オレたち皆を滅ぼす力を持ってる。

 竜人の長は偉いから、その言葉には従ってる」

「でもオレ達は正直信仰とか難しい事は分からない。

 ただ神の怒りの矛先が自分たちに来ないようにしてるだけだ」

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#482

「そんな..私は部族のみんなと何も違いはしない」

「お前が神官になったあの時はまだ、狩りの腕はキーンの方が上だった。

 それでもお前が竜人の長から神官に任じられたのは、

 お前がそういう事を"分かる"やつだったからなんだと思うぞ」

 

そんなっ、私はそんな....

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#483

「もし..もしだぞ?神がオレ達を滅ぼそうとしたとしても」

「サモが神官なら何とかしてくれるんじゃないかって、

 みんなそう思ってるんだ」

「.......」

「帰ろうぜ」

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#484

自室に帰ると獣人族の職員から呼び止められた

「ニャ、サモさんに手紙を預かってますニャ」

『龍結晶の地で待つ ベルモート』

私はこれがイヴェルカーナの件であると直感した

....行くべきだろう

 

身体を休めるのも忘れ、すぐに荷物をまとめて出立した

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