MONSTER HUNTER WORLD ICEBORNE
二次創作物語
【第六章】これが古龍だ
~どうすべきなのか~

#563
安全な場所で一息ついた私達は
これまでの事を話していた
彼はイヴェルカーナと少し前にこの地で出会ったそうだ
そこでイヴェルカーナは形態に変貌をきたし
氷を纏った異様な状態に移行したという

#564
私は..まだ話していなかった私自身の生い立ちを話した
獣人族の里で育てられた捨て子だったこと
竜人族の長に認めを受け、神官となったこと
神に捧げる供物を狩るために狩人としての強さを追い求めていたこと

#565
神が古龍であることは分かってる
倒せる存在であることも分かった
しかし、だったらなぜ
これまで我々部族はあれらを神として畏れ敬い奉っていたのか
力云々以前に、そもそも立ち向かっても良いものだったのか
それが分からない
正直な気持ちを彼に伝えた

#566
「遥か昔に凍て地を去ったクシャルダオラはともかく
イヴェルカーナは今まさに凍て地に君臨している神だ」
「私の軽率な判断で部族を危機に晒したくないし
我々部族だけでなく、かつて昔イヴェルカーナにそうされたように
人間までも全て滅ぼされるかもしれないのだ」

#567
「あんたの事情は分かった。正直驚いたが...
そういう事情だったんなら躊躇したのも頷ける。
クシャルダオラとの戦いは辛いものがあっただろう。
...すまなかったな」
「サモ、竜人族の長と話してみてはどうだ?」

#568
「俺もイヴェルカーナを追わなければならない。
あんたもそうするつもりなら、俺と一緒にセリエナまで来てくれ」
確かに、竜人族の長とは話をしなければならない
報告や相談もだが....
長は私の知らない私の何かを、知っているはずなのだ

#569
ベルモートと共にセリエナへ向かう事を決心した私は
一旦荷をまとめるべくアステラへ戻ろうとしていた
道中アッパーが急に立ち止まって言った
「サモ、オレはついていけない」

#570
アッパーの意図は分からない
なぜ、ついてきてくれないのか
聞くこともできない
ただ一言、どうにか言葉を絞り出した
「少し、歩こうか」
私達は言葉もなく、岩場の道を歩いた

#571
顔も合わせず
黙って歩を進めながら
涙が止まらない
今傍にいて欲しいのはお前なのに
一緒にいて欲しいのはお前なのに

#572
私は神官としてふさわしくなかったのかな
神を殺した私は...もう友達でもないのかな
なんとか言ってくれ........
私は....耐えられない....

#573
キャンプの傍まで来て
アッパーが立ち止まった
私のぐしゃぐしゃになった顔を見て静かに語り出した
「サモ、オレはここでやる事がある」
「オレが戻るまで、ベルモートの傍を決して離れるな」
キョトンとした私の頭をアッパーは乱暴に叩いた
「早いとこ行け!!
お前がいると奇面族の連中に相手にされないんだよ!!」

#574
私はハッと思い出した
以前大蟻塚の荒れ地で出会った奇面族....
彼らがここにいると?
アッパーは独自にその情報を掴んでいたのだ
それはともかくとして殴ったのは許さん
私はアッパーを蹴っとばし、乱暴に言い放った
「そうか!!じゃあ行ってこい!!
必ずモノにして来いよ!!」
不思議と不安な気持ちはいつの間にか晴れていた

#575
翼竜に摑まり去っていくサモを見送りつつアッパーは思いに耽る
サモはヒトの中で暮らした方が幸せになるだろう
ベルモートとつがいになれれば、それが一番いい
もしいずれ、サモが部族から離れることになったとしても
オレがあいつの友達であることだけは不変なのだから

#576
部屋に帰り寝台に座った私は
荷物をまとめるのも忘れて放心していた
何を思い詰めるでもなく
心が空っぽになったように
ただ遠くを見つめていた

#577
窓からは心地よい風が吹き込み
遠くに賑やかな雑踏が聞こえる
ほんのひと時だけ、殺気立った戦いの昂ぶりや
置かれている境遇を忘れて
穏やかな空間に身を任せていた

#578
しばしの休息ののち、鎚を手に取る
凍て地に戻ればまた新たに色々な事に直面するだろう
しかし私は目を背けない
私が何者であるのかを知るために
そして、私が何者になるのかを決めるために
立ち向かっていくんだ

#579
日があるうちにアステラを発ったが
セリエナに着くころにはすっかり日が暮れていた
"宿で待っている"とベルモートから言付けを受けていた
ひとまず今夜はあそこに泊まろう

#580
ここに来るのも久しぶりだ
相変わらず煌びやかで豪華なたたずまいだ
下からベルモートの呼ぶ声が聞こえる
どうやら既に食事の準備を整えていたようだ

#581
豪勢な肉料理を前に、彼は押し黙っていた
「何かあったのか?」
「イヴェルカーナがこちらに戻ってきているらしい。
動きが活発で、セリエナに来るのも時間の問題だろうとの見通しだ」
「そうなのか..どうにか鎮められないだろうか」
「砦では早急に防衛の為の兵器を建造しているそうだ」

#582
沈黙が流れた
もはや決戦が避けられない事を予感しているのだ
"鎮められないだろうか"
そう口に出した自分に甘さがあるのは分かっているが
神官として、なにかまだできる手立てがあるのではないか
そう信じたい気持ちもまだ残っていた

#583
「...乾杯しよう。料理が冷めてしまう」
「あぁ、そうだな」
「私の身の上も話したんだ。あなたの話も聞かせてくれるんだろう?」
「あぁ。もちろんだとも」

#584
「では..勝利に」
「勝利に!乾杯!!」
少々気持ちも沈んでいたが、目の前の料理はとても美味しそうだ
せっかくだから気持ちを切り替えて楽しもう
「そういえば聞きそびれてたが、相棒はどうしたんだ?」

#585
「アッパーか?ははは!
あんな奴の事はいいんだ
私をほったらかしてまたどっかに行ってしまって」
アッパーがいなくなるのはいつもの事だが
半ばやけくそのように思わず愚痴をこぼした

#586
「獣人のお供を連れているハンターは多いが、
あんたと彼の連携は抜群に良かった
彼との付き合いは長いのか?」
「.........アッパーは.......」
明るく振舞おうと思っていた私は、アッパーの事を思い出し
少し胸が苦しくなった

#587
「幼い頃からずっとつるんでいたんだ」
「私は..ただひとりのヒトだったから、やっぱり里では
時に差別的な扱いを受けることもあった」
「それでも...アッパーはいつ何時も態度を変えることなく
私に付き合ってくれていた」
「里を出る時も、あいつが付いて来てくれてどれほど心強かったか」

#588
「いい相棒を持ったな」
「彼はきっと戻ってくるさ
あんた達の間にはしっかりとした信頼が感じられる」
「ベルモート...」
「彼との絆を大事にするんだ
これから先も彼の存在はきっとあんたの大きな支えになるはずだ」

#589
それから私達は酒を交えながら語り合った
彼の故郷の話
彼がこれまで出会ったモンスターの話
それと..
エステリカ。母の話も

#590
食事もひとしきり済んで長椅子でお腹を落ち着けていた私はふと気づいた
「そういえばこの部屋は寝台が一つしかないが..
今夜はどうやって寝るんだ?」
「ベッドはあんたが使ってくれ。俺は酒場で朝まで飲んでる」
そう言うと彼は宿を後にした

#591
一人になった私は外に出て夜風に当たっていた
獣人の里で暮らしていた頃は
こんな暮らしは想像もしていなかった
私も、もし捨てられていなかったら
人々の中で同じように過ごしていたのかもしれない

#592
かつてイヴェルカーナに滅ぼされてしまった人々が
再びこの地で営みを形成しようとしている
私は、人間が好きだ
獣人族のみんなともきっと良い繋がりを築いてゆく
これからこの地で芽生えていくだろう、命の営みを
決して潰えさせたくない

#593
獣人族であり、人間である私にしかできない事
両者の懸け橋として
この地を守る神官として
私がどうすべきなのか
ひとつの答えを出そう

#594
夜風に当たっていたら体が冷えてきたので湯に浸かることにした
ベルモートと一緒に入っても良かったんだが
彼は早々と酒場に行ってしまった
そういえばヒトの習慣では男女が一緒に入浴するのは
避けるんだったか...
獣人族の里では気にした事がなかったな

#595
湯煙の合間から見える星空が綺麗だ
凍て地は本当に空気が澄んでる
神衣の宝珠を外し、寒さを身に染みている今だからこそ
湯のぬくもりが心地良く、心を癒す

#596
湯に身を任せ、体を伸ばした
節々が軋み、あちこちに痛みが残っている
クシャルダオラとの戦いは並々ならぬものだった
これまでとは全く違う...
そう考えているうちに、私は自然と目を閉じていた

#597
脳裏に浮かぶのはクシャルダオラの動きの残影
恐るべき迅さでこちらに迫る
相手の動きにどう合わせるか
頭の中で、幾度も試行を重ねる
それが今後の為に必要であることを
本能的に悟っていたのかもしれない

#598
長考していたらのぼせてきてしまった
このまま寝るにはどうにも気持ちが落ち着かないな
私も酒場まで行くか

#599
酒場まで来ると奥の席にベルモートが座っていた
「おおーい!ベルモート!
私も来たぞ!一緒に呑もう!」
そういえば酒場で飲むのは初めてだ
彼ならいろいろ詳しいだろう
オススメを教えてもらおう

#600
酒場でベルモートの隣に座った私は酒をあおりながら
狩りの手法について、彼に熱く語った
彼はどうも私が追いかけてくるとは思っていなかったようで
なにやら少々めんどくさそうな顔をしていたような気もする

#601
「いやあぁ~~~~しっかしベルモート!
あなたの狩りの技術には感服したぞまったく」
「そ...そうか。それはなによりだ」
「特に壁当てだ!!
あれは本っ当に素晴らしかった!!」

#602
「まあ今回はあんたやアッパーの助けもあってだな...」
「アッパー!!!
あのバカ野郎」ダン!!!
私は思わずテーブルにジョッキを叩きつけた

#603
「おい落ち着け、相棒の事は納得したんじゃなかったのか」
「そうだった
ベルモート、もっかい乾杯しよう!仕切り直しだ!
かんぱーい!!」
「あ..ああ...乾杯」

#604
「いやぁ~これ美味しいな
どれだけでも飲めそうだ」
「いやサモ、もうやめとけ。どう見てもあんた酒には向いてないぞ」
「何を言うんだ、まだ始めたばっかりじゃないか
それよりな、この前大蟻塚の荒れ地で戦った獣なんだが...」

#605
語っているうちに段々と楽しくなってしまった私は
ついつい酒の進みも早くなり
気付けばすっかり酩酊し、丸椅子に背中を預けぐったりとしていた
「あんたさっきまで湯に浸かってたんだろう?無理し過ぎだ」
「なんの....わたしは....まだまだ....のめる....ぞ」

#606
どうにか体を起こしたが、そのまま机にのめりこみ
意識がだんだんと遠のいていった
「やれやれ..こういうところは母親とそっくりだな」
ベルモートがボソッと呟いた気がした

#607
目が覚めた私はハッと飛び起きた
もうすっかり朝になっている
いつの間にか寝台まで運ばれていたようだ
ベルモートの姿は無いようだが...
うぅむ......
頭が痛い

#608
食卓の上に書き置きがある
"俺はやることがあるから先に出る。 あんたも気を付けて行ってくれ"
"追伸 深酒は控えた方がいい"
ベルモート
