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​【第四章】この身を張って

~守りの大盾~

大蟻塚の荒地装備完成_Fotor.png

#275

再びアステラへと戻ってきた

離れていたのはわずか数日だったが

やはりセリエナとは空気が違う

いつでも賑わいを見せるこの拠点は

不思議と気分をらせ、狩りへの意欲を搔き立てる

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#276

アステラで総司令と再び会った

「なんだ、君もこちらへ来ていたのか。

 こちらで狩りをするつもりなら新しい部屋を使うといい」

彼の勧めで、滝の合間にある品質の良い部屋を

使わせてもらえることになった

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#277

紹介された部屋に行ってみると

以前借りていた部屋よりもずっと立派で快適そうな部屋があった

セリエナの宿も凄かったが、私にはこれくらいがちょうどいい

景観も、聴こえてくる音も気持ちのいい部屋だ

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#278

ともあれ、せっかくアステラに戻ったのだ

まずは食事としよう

食事処に向かうとちょうど料理長が肉を焼いている所だった

いつ見ても豪快な手法だ!!

私だったら絶対に焦がしてしまう

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#279

食事を終えると、アッパーがかまど番の獣人に話しかけていた

このあたりの獣人族の里の事を尋ねているようだ

 

大蟻塚の里、陸珊瑚の里、気の谷の里などがあり

一番近いのは大蟻塚の里なのだそうだ

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#280

大蟻塚の荒地か..どのような場所なのだろうか

討伐依頼書に目を通してあるので

生息している大型獣の名前くらいは確認したが

 

さっそく私たちは現地へと飛んだ

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#281

そこには凍て地とも森とも違う環境が広がっていた

荒々しい岩肌が露出し、乾いた風が吹き抜ける

こんな景色は見たことがない

見通しが良く、遠くの方にいる獣の姿も確認できる

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#282

しばらく歩いていると、奇妙な形の岩の塔から小さな昆虫が

列をなして進んでいるのを見つけた

きっとこれが"蟻塚"だろう

アッパーはとりわけアリに強い興味を示した

いつまでもそこから離れようとしないので呆れてため息が出る

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#283

湿地や狭い岩壁の道を抜けて進んでいくと、奇妙な仮面の一団を見かけた

数人で奇声を発しながら踊っている

これが大蟻塚の獣人族だろうか

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#284

さっそく話しかけようとすると

奴らは私たちを見るなり奇声を発しつつ襲い掛かってきた

何かの言葉のようだが..

アッパーの顔を見るも分からない)といった様子で首を振っている

 

なんにせよ臨戦態勢だ、応じるしかないっ

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#285

仮面の一団はさほど強い力は持ってはいなかったが

あらゆる毒物や、爆発物を使って攻撃してくる

アッパーが麻痺毒を受けて痺れている間に

奴らは一匹、また一匹と忽然と姿をくらましていた

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#286

気付けば奴らは一人もいなくなっていた

アッパーに具合を尋ねる

奴らの言語は最初全く分からなかったがどうやら

強いりを含んでいたそうで

じっくりと聞き取れば会話ができるかもしれないとの事だった

奴らの使う爆弾が気に入ったそうで里まで行って

根気よく交渉するつもりらしい

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#287

道をそのまま進んでいくと、砂地の広がった場所に出た

遠くに巨大な岩の塔が見える

あれが.."大蟻塚"か...

 

段々と日が落ちてきた

どこか休む場所を探した方がいいかもしれない

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#288

せっかくなので大蟻塚を近くで見てみる事にした

足元に沢山の蟻が集まって大穴の中に入っていっている

その穴はなかなかの大きさで

 

...よく見ると、人が通過した形跡がある

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#289

何かあるのだろうか..?と中を覗き込んでいると

砂地で足を滑らせてしまった

穴の中に吸い込まれるように縦穴に滑り落ちていく

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#290

勢いよく滑り落ちてしまったが、落下したところに何かが散乱しており

衝撃を和らげることができた

よく見るとそれは古い獣の骨の集まりで

風化してすっかり脆くなっている様子だった

辺りの空間は思ったよりも広く、先まで通路が続いている

しかし、穴の中だというのに、妙に明るい..

通路の向こうの方に、明かりが見える

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#291

先の方へ進むと、そこにはキャンプが設立されていた

こんなところに..

既に先人たちにより調査の手が入っていたのだろう

夜も迎えようとしていたので

ありがたく使わせてもらう事にした

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#292

キャンプの中で体を伸ばす

洞窟の中は外と違い、ひんやりとした空気だ

 

私は暑いのは苦手なので

こういう場所で休めるのは非常に助かる

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#293

携行食をかじりながら、この場所の事を考えていた

まだここに来て大型の獣は見かけていない

生息している場所が違うのだろうか?

ここは広そうだ

充分に探索するには時間がかかるだろう

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#294

深夜、ふと目が覚めた私はアッパーがいない事に気付いた

キャンプの外にもいない..

どこかでかすかに話し声がする

誰かいるのか?

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#295

声のする方に行ってみるとそこには横穴があった

 

この奥の方から声がする

よく見ると穴には何か模様が刻んであった

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#296

そこには獣人族の集落があった

アッパーは獣人たちと何かやり取りをしている

どうやって気付いたんだろうか?

私にも声をかけてくれればよかったのに..

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#297

アッパーによると、彼らは"荒れ地のまもり族"という

一族で 夜中に彼らの方から接触してきたらしい

私を起こしても良かったのだが、彼らの言葉の分からない私がいては

正直やり取りの邪魔だと思ったので起こさなかったそうだ

 

思わずアッパーの頭を叩いた

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#298

まもり族の一人が一族の道具の使い方を実戦で教えたいという

案内された場所へ行くと縦穴があった

まだ夜は明けていないが..と言うも

"関係ない"と返されてしまった

導虫が激しく反応している

仕方ない、行こう

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#299

穴を降りると、すぐそばに黒光りする巨大な獣が歩いていた

異様な角を持つ、見るからに狂暴そうな風貌だ..

突然の遭遇に身を固めていると、奴の赤く輝く瞳と目が合ってしまった

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#300

奴は私の姿を見るなり足踏みを始めた

これは..突進してくるつもりか!

危険を察知し背筋に悪寒が走る

すぐさま回避しなければ

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#301

あまりの突進の疾さに完全にはかわしきれず

ほんの少しかすっただけで吹っ飛ばされてしまった

転がった拍子に天井に目が行く

上の方、穴の口で委縮しているアッパーと目が合った

降りてきてるの私だけじゃないか!あのバカ!!

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#302

仕方なく応戦しようと鎚を構えた瞬間

私の脇を突然巨大な何かが猛烈な勢いで飛び込んできた

 

巨大な何かは黒い獣に激しく激突し、

そのまま角を絡めて取っ組み合いを始めた

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#303

二匹は私のことなどお構い無しに激しく衝突し合う

横で傍観していてようやく状況が飲み込めた

 

こいつらは角竜ディアブロスと、その亜種だ

どっちが亜種なのかは忘れてしまったが

彼らは縄張り意識が強く、同族でも激しく争うそうだ

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#304

あまりの事態にまもり族が降りてきて

「危ないニャ!逃げるニャ!!」と叫んだ

 

その時、二頭は耳をつんざくような凄まじい咆哮で威嚇し合った

なんという金切声だ!!

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#305

二つの土柱が両方向に走っていったかと思うと、不意に辺りが静かになった

「二匹とも立ち去ったニャ、ついてたニャ」

獣人族はそう言って安堵のため息をついた

アッパーは降りてきて、バツが悪そうな顔で苦笑いした

 

おまえ後で覚えていろよ

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#306

土柱の片方を追ってみると洞窟の外に出た

深夜と思っていたが、いつの間にかもう日は昇っていた

向こうには黒い方のディアブロスがキョロキョロと辺りを伺っている

荒れ地の獣の力、見せてもらおう

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#307

突進力の強い獣であるのなら、取るべき戦法は一つだ

突進を十分に回避できる余裕を持ち、正面には立たない

向かってきたら避け、側面から攻める

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#308

私の方に向かってくるものと思ったが

目の前にいたアッパーを角で薙ぎ払おうとしたので

咄嗟に距離を詰め、胴元に一撃を喰らわせる

強烈な一撃で火竜の鎚が火を噴いた

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#309

仮面の一団と戦った時には当たりが浅かったのか火は噴かなかった

こんな力を秘めていたのか..

奴の巨体がぐらついた

威力も十分だ

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#310

まもりの一族が盾を構えて叫ぶ

「アッパー!さっき渡した盾を構えるニャ!!」

「守りの大盾の力を信じるニャ!こいつの突進だって防げるニャ!」

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#311

アッパーが盾を構えて身構える

しかし獣の意識は私に逸れていて、盾を活かせていない

盾の使い方が飲みこめてないのだ

構えたまま黙って下を向いて攻撃を待っている

「アッパー、こっちを見ろ!!ちゃんと機を読め!!」

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#312

アッパーに声をかけている間に奴の突進を受けてしまい

私はひっくり返されてしまった

アッパーは慌てて盾の向きを変えるが、変わらず待ちの一手だ

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#313

そうこうしてる間に奴は地中に潜り移動していった

私はアッパーをジロっと一瞥すると

回復薬を飲み干し、奴を追った

後ろで獣人族の声がする

「ごめんニャ、仕事があるから手伝えるのはここまでニャ」

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#314

大蟻塚の砂丘のところに奴はいた

岩の塔に身をひそめながらこっそりと近付き

日陰から一気に距離を詰めた

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#315

砂丘の傾斜を利用して跳躍し

奴の角めがけ回転撃を叩き込んだ

さしもの奴の角も火竜の鎚の連撃を受け、鈍い音を立ててへし折れた

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#316

奴は再び地中に潜り込む

また逃げる気か?

 

私は地中の動きに注意を凝らす

..い、いや

こっちに向かってきているぞ!!

まずいっ!避けきれない!!

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#317

地中からの強烈な一撃で、辺りの砂ごと吹き飛ばされた私の体は

宙に高く飛ばされ岩場に叩きつけられた

みぞおちにまともに喰らってしまい、衝撃で息ができない

角を折っていなかったら腹を貫通していただろう

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#318

苦しみでまともに動けない私を、奴は尾の一撃で跳ね飛ばす

無防備な体勢への尾撃はまるで鎚の一撃のように重く

私の命を確実に削り取る

アッパーが盾を構えて叫んだ

「こっちだ!!黒いの!!かかってこい!!」

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#319

奴はアッパーの挑発に気付くと唸り声をあげつつ

力強い足取りでアッパーへと詰め寄った

角を振り回しての猛撃を

アッパーは慣れない盾捌きでどうにか凌いでいる

私はその隙に秘薬を口にすると、呼吸を整えて鎚に力を込めた

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#320

大振りの攻撃に、一瞬のスキが生じる

ここだっ!!逃さないっ!!

素早くクラッチで頭部を掴み、渾身の力で殴り掛かった

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#321

一撃を入れた勢いをそのままに

まだ食い込んだままのクラッチのロープを利用して空中へ跳躍し

更なる宙からの叩き付けを顔面に見舞う

ディアブロスの表情は強烈な痛撃に歪み、怯みの色を見せた

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#322

今の一撃が効いたのか、奴の動きが明らかに鈍くなった

この機を逃すまいと連撃に次ぐ連撃を加える

どうにか振り払おうともがく奴の動きも完全に読み切れる

接近戦ではこちらに分がある!!

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#323

奴はたまらず地中へと潜り

砂丘の淵へと逃げていった

 

先の方は下り坂になっており、洞窟へと続いているようだ

もはや手負い

追って仕留めるのみ

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#324

洞窟の奥で奴は眠っていた

トドメをさそうとする私をアッパーが止める

「待て、まもり族から捕獲の道具をもらったんだ。試してみよう」

捕獲..?

殺さずに生け捕ることができるというのか?

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#325

「手順はこうだ。まずこの麻酔玉を弱った獣に十分に振りかける。

 そうしてあとは罠にかけ動きを封じる」

私は奴を起こさないよう細心の注意を払いながら麻酔の煙を焚いた

なんだか..この香りは、妙な気分だ

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#326

大蟻塚のキャンプから持ってきていた痺れ罠を仕掛けると

奴の動きは完全に封じられ、ディアブロスは深い眠りに入った

アステラに帰って調査班に連絡すれば、勝手に回収してくれるのだそうだ

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#327

アステラに戻って数日後、ディアブロスの体は拠点まで運ばれていた

調査研究所の職員から報酬としてディアブロスの素材を受け取る

彼によると、この個体こそが亜種なんだそうだ

亜種は非常に強力で、滅多に捕獲はされないそうだ

重ねてお礼を言われた

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#328

狩りの疲れも落ち着くと、

私は黙って道具の手入れをしているアッパーの前に座った

アッパーは気まずそうな顔でちらりと私の表情を伺い、顔を伏せた

「おい」

「今回のおまえは最悪だったぞ。凍て地での根性はどこへ行った」

私は厳しい表情でアッパーを問い詰める

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#329

「す..すまん」

「あの黒い奴..あまりに狂暴そうで、ためらってしまったんだ」

私はため息をついた

「まぁ..お前が庇ってくれたおかげでどうにか危機を免れたが」

「次は、私を守ってくれよ」

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#330

それから一週間ほどは荒地の探索をしながら現地の獣を狩った

道中、ボルボロス、ジュラトドスといった初見の獣の他に

リオレイア、プケプケなどの出会ったことのある獣とも遭遇した

これらはディアブロスほどの強さでは無かったが、

まもりの大盾の良い練習台になった

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